パラレル
□褒美の約束
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「は―、やっと終わった」
軍議を終えて主君の前を辞した途端についた望美の深い溜め息に、隣を歩く九郎がくすりと笑んだ。
「流石のお前も飽いたか」
「飽いた、というか……まだ戦は終わらないんだな、と思って」
「戦国のこの世に、戦無き時間を求めるには少しばかり無理があるな。お前のために、無理をしてでも平和を勝ち取ってやりたいところだが」
「うん……」
「そう憂い顔をするな。久々の戦だ、堂々としておいで」
望美の頬を、九郎の指の背が撫でていく。
擽ったそうに片目を眇める仕草に気をよくした九郎の指は、目元を掠めて紫苑の髪を慈しむように梳いていった。
「大将軍、姫将軍、軍議お疲れ様でした」
「ああ」
「貴方達も、ご苦労様」
駆け寄ってきた小姓から、2人は各々自らの剣を受け取る。
見事な意匠の剣を履く2人は、この国の双璧とも謳われる大将軍の名を冠していた。
「これから戦だ。忙しくなるぞ」
「はっ。……お二方ともご出陣ですか」
「そうだ、大がかりなものになる。そのつもりで準備せよと兵に伝えろ」
「御意」
小姓が駆けていく背を見送り、その姿が消えるやいなや、毅然としていた九郎の声に憮然としたものが混じった。
「……で、何故俺が望美と離れる必要がある」
「『相模の双璧』の名を世に知らしめたいんでしょう」
「そんなことはわかっているさ。問題は、」
さわり、と九郎の腕が伸びて望美の腰を引き寄せる。
あらがわず身を任せた望美の耳朶に唇を寄せて、けれど艶めいた声色が囁くのは睦言ではなくただの愚痴。
「俺の傍らに、お前がいないということだ」
「……九郎さん」
「俺の可愛い姫将軍は、寂しいと思ってはくれないのかな?」
「そんなことない。寂しい……よ」
ただ九郎と一緒に居たいだけなのに、この戦乱の世ではそんなささやかな願いさえ叶わない。
これから暫く会えないことを思って、望美は九郎の腕の中で再びそっと溜め息をついた。
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