パラレル
□獣×獲物
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雨と、血と……
お前の匂い……
《獣×獲物》
その日は雨が降っていた。大雨。叩きつけるような豪雨ではなく、静かに、止めどなく、大地に覆い被さっていく。
その光景を見た……正確には見てしまった瞬間、望美の身体は硬直した。
美しい白刃が、闇を躍る。
斬り裂かれた男の身体からは、紅よりなお深い朱色が噴き出した。
鮮血が、雨と混じり、アスファルトを染めあげる。
血色は雨に溶け、白刃はもとの煌めきを取り戻していく。
全身を雨と血に濡らし佇む、持ち手の髪の色と同じ、白銀色に。
「……っ」
声が、出なかった。
この場から逃げなければと思うのに、足が竦んで動かない。
何に身を縛られている?
雨にか。
鮮やかな血色か。
殺人の瞬間の恐怖か。
それとも、
雨の中佇む、獣にか。
黒衣をまとった獣が、ゆったりと顔をあげる。
逃げる、間もなかった。
濡れた白銀の髪の合間から、紫水晶のように煌めく双眸が望美を捉えていた。