春の特別企画
□秘めた想い
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「……いや、言わねえ」
ティファは……自分の気持ちを真剣に受け止めてくれるだろう。
でも、自分のことで余計な悩みごとを増やしたくはない。
今は、誰もが目の前のことで精いっぱいだから。
「……どうして…?」
ティファの声が震えた。
はっとティファの顔を見ると。
美しい紅茶色の瞳が、涙を浮かべて、揺れていた。
「……っ!」
バレットは思わずティファを抱き締めた。
「!」
無意識だった。
気付けば腕の中に愛しい人がいた。
「バレッ…ト?」
ティファは戸惑ったように彼の名を呼ぶ。
彼の腕の中は、とてもあたたかかった。
彼の厚い胸板や、鍛えあげられたたくましい腕に包まれて、彼の匂いを感じる。
男の匂いがする。
「オレは、お前の瞳が好きだ。まっすぐで、強くて優しい光が宿ってる」
「バレット…」
バレットの余裕のない、緊張した声。
そして胸から聞こえてくる早鐘のような心臓の音。
それらはティファに、バレットは父親ではなく一人の男である意識を呼び起こした。
バレットはティファを解放し、まっすぐに彼女の目を見た。
そらすことなく。
「言うべきじゃねえかもしれねえ。……でもオレは…もうお前を娘として見ることはできねえ」
ティファは大きく目を見開いき、バレットの目を見つめたまま。
頬を真っ赤に染めて。
「わた…し、私は……」
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