テキはどこだ

□Obsidhians
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「俺は、アイツらだったかも知れないんです」
放課後の屋上、遠い空の一点を見つめながら、獄寺が呟く。
綱吉の口が薄く開いて、小さく息を吸う、音がした。

<Encounter>

 グランドから響く球音。山本は頑張っているだろうか。頭のどこか隅っこで冷静に綱吉は思う。
「俺が9歳の頃、街に妙な噂が広まったんです。壊滅寸前のエストラーネオが、将来の幹部候補として子供のファミリーを探してるって」
煙草に火を付け、ゆっくりと一口吸い込む。吐き出した紫煙に獄寺は次の言葉を乗せた。
「その言葉に乗せられた連中は二度と戻ってきませんでした。
もちろん、そんな噂はガセだったんです。連れて行かれたのは全員、マイノリティのストリートチルドレンでした。エストラーネオにしてみればそんなガキども、ただの使い捨ての材料だったんでしょう」
強い風が吹いて、銀灰色の髪が彼の表情を隠す。薄く千切れていく煙の行方を、綱吉はただ見つめていた。
「一度だけ、エストラーネオの男と鉢合わせて、連れて行かれそうになりました。何とか振り切りましたけど。・・・怖かった。」
 搾り出すように囁く。語尾が震えている。
「俺が逃げ延びて貴方に出会ったように、アイツらは閉ざされた世界の中で、骸と出会ったんでしょうか?」
 もし、彼が、逃げ延びていなければ。
 もし、骸や千種や犬が、エストラーネオの妄執に巻き込まれていなければ。
 ダイナマイトを携えた獄寺が、哀しい憎悪の目で自分と対峙していたのかもしれない。戦ってまでも守りたい相手が、彼らだったのかもしれない。
「・・・それでも、もし、時間が戻っても。
俺は、あいつらと戦う。」
 時間は巻き戻らない。「もしも」なんて言葉、過ぎてしまった過去に問いかけても意味は無い。

答えなど無い。
答えなど、どこにも在りはしないのだ。
Fine



<あとがき>
 黒曜編が始まったころから、ずっと書こうと思ってたネタです。最初は骸と獄寺は顔見知りの設定でしたが。ひとつのファミリーの中に日本人が何人もいることはないだろうなぁ、と思って。全員が自分の子供を実験体に差し出すとも思えませんしね。どっかから拾ってきたんじゃないかと。もしくは安くで買い叩いたか。
 タイトルはエッシャーの作品から。絵の中央で光と影が入れ替わるだまし絵です。
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