テキはどこだ

□宴の後
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<晴れたらいいね>

放課後。学校からの帰り道。
知らない人についていってはいけません、ってお母さんにも先生にも言われてたのに。
「・・・お兄ちゃん、お兄ちゃんっ」
殴られ、大きく裂けた額から血が流れる。
「ごめ・・・なさい・・・お兄ちゃ、ごめんなさい」
太い腕で押さえ付けられたまま、繰り返す謝罪。
どさり、と目の前で倒れこむ兄―了平。

「――お兄ちゃん!」
「京子、起きろコラ」
自分の悲鳴と重なる様な呼び掛けに、京子は目を開いた。


 見慣れた天井をバックに、金髪の幼児が自分を見下ろしている。
「コロネロ君・・・起こしちゃったね、ごめんね」
枕元に座る子供を抱きかかえながら京子は掠れた声で謝った。コロネロは首を横に振り、小さな手で彼女の二の腕をあやす様に叩いた。そこで初めて京子は自分が震えていることに気付く。
怖い夢だった。随分うなされたのだろう、喉がカラカラだった。眼が冴えてしまって、しばらくは寝付けそうにもない。

―ホットミルクでも飲もう。
再び眠ろうと横になったコロネロに気を使った京子は一階に降り、誰もいないキッチンに立った。
甘い香りとともに、湯気が立ち上る。ぼんやりと眺めながら、京子はさっきまで見ていた夢を反芻する。
兄は一度も、自分を責める事はなかった。あれだけの重傷を負い、消えない傷跡を作ってしまったのに。
火を止め、温まった牛乳をカップに注ぐ。ゆらゆらと上る湯気越しに窓を眺めた。外の闇は何事もなかったかのように静まり、夜に見たのは幻のように思えた。
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