ストライク・ストライク
□The Wheel of Fortune
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<The Wheel of Fortune>
side T
吐き出す息は白い。
いつもの道を、いつものペースで駆け抜けて行く。頬を刺すような風が心地好い。冷たい空気が肺を通り全身を巡る。
神社の階段の下で、巧は大きく息を吐いた。
鳥居を見上げ、一気に駆け上がる。石段に慣れた足は、規則正しいリズムを刻みながら巧を最上段まで運んだ。
鳥居の先、社の手前で丁寧に体をほぐしていく。
―明日はご馳走なんだから、さっさと帰ってくるのよ!
昨夜の真紀子の言葉を思い出す。
この日は、記念日なのだから。
言われなくても分かっている。自分たちが新田に越してきた日。
豪に出会った日だ。
この一年で身長が伸び、声も低くなった。神社まで道も体が覚えた。もう、迷うことは無い。
ゆったりとした動作で構え、今ここには無いミットを描く。
―ただ、最高の一球を。
腕を振り抜くと、張り詰めた空気が引き裂かれる。
「ナイスピッチ!」
背中から投げられた声に、巧は肩越しに振り向いた。