ストライク・ストライク
□蛍火の杜へ
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「巧。蛍、観に行かんか?」
「蛍?」
「そう。観たこと無いじゃろ、お前?」
朝のキャッチボールの後、弾む息で豪が尋ねた。
<蛍火の杜へ>
梅雨時の晴れ空は貴重だ。雨に洗われて澄んだ空は、いつも以上に青く深い。日が落ちてもそれは変わらず、満天の星空が新田の夜を覆っていた。
それでも吹き抜ける風は湿気を含んで重く熱かった。この風が軽くなると、夏がやってくるのだ。
まだ重い風に吹かれながら、巧は目の前の山を見上げていた。
「・・・おい、本当にここ登るのか?」
少し前で立ち止まり、軍手をはめている豪に尋ねる。
「登りだせば目印もあるし、獣道があるから割に歩きやすいんじゃ。」
振り向いた豪が事も無げに頷いた。
―マジかよ。
心の中で呟く。巧からすれば目の前にあるのは鬱蒼とした森に過ぎない。一体、どれが目印で、どこが獣道なのか。
「ちゃんと付いて来いよ、巧」
戸惑いを見抜いたように、振り向いた豪がにっと笑った。