ソノタ

□嵐が来る
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遠雷は、嵐を連れてくる。

 晴れ渡った青空の下で行われたイーチェの壁画披露式。式の終了後、集まった人々の交流会も兼ねて軽いお茶会が開かれていた。話すことのできないイーチェは代わりに手話を巧みにこなし、兄である孫は通訳として彼女の傍にいる。知らぬ者がみれば恋人同士にも見えそうなほど睦まじい兄弟を、ショウは少し取り残されたような気分で眺めていた。
 ピザを持ってくる、と張り切っていたトシはまだ姿を見せない。何度か電話してみたが、空しく留守電になるばかりだ。
 ・・・どうせまたくだらない事で夜更かしでもして、着信にも気付かずに爆睡しているのだろう。あれでよくピザ屋をクビにならないものだ。ムカムカと腹をたてながらケーキを頬張るショウの額に、冷たいものが落ちてきた。

 驚いて見上げた空はいつの間にか黒い雲に浸食されいて、今にも泣き出しそうだ。対照的にショウの心はにわかに弾み出す。
―これなら、ケイも来れるんじゃねーの?
 本格的に降り出す前に、とお茶会はお開きになりつつある。そんな連中を後目に、ショウはポケットから携帯を取り出して、メモリにあるケイの番号を押した。
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