ソノタ
□May day
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そこは、ひどく寒かった.あたりは暗闇で,何も見えない.闇の中で少年は首を巡らせた.
―ここはどこだろう?
手首に痛みを感じる.どこかに縛り付けられているせいだと気付き,慌ててほどこうとしても,白いロープは細い手首を締め付けるだけだった.動かすほど痛むという事を悟った彼はその場に座り直した.暗闇と寒さ,それに縛り付けられて動けない恐怖から,自然と涙がにじむ.泣くまい,ときつく目を瞑ると,何時の間にか殴られた頬が痛んだ.
<May day>
眼を開けた時,闇の奥で何かが蠢いたような気がして,彼は身を引いた.眼をこらすが,動くものは見つけられない.
気のせいか,と溜め息をついた瞬間.
ざぁっ,と音を立てるように,闇が盛り上がった.急速に形を成しながら,少年の元へと迫る.爛々と輝く瞳と,大きく裂けた口が,恐怖に引き攣った彼に襲い掛かった.
逃げよう,そう思って必死に足掻くのに,縛られた手首は頑として動かない.泣きながらロープを引き千切ろうと暴れる.強い摩擦で皮膚が切れ,血がにじんだが,その痛みを感じる余裕すら無い.
―嫌だ,助けて,助けて!
闇の化け物と,自分しか存在しない暗闇に,絶叫が響き渡る.
小さな体を飲み込もうと,化け物が大きく開けた口の奥は,更なる闇だ.少しでも距離を取ろうと後ろに下がるが,巨大な化け物には何の意味も持たない.
―助けて,嫌だ,嫌だ,嫌だ…
「…城之内君!!」
見開いた眼の前に,泣きそうな顔をして自分を呼ぶ親友の顔があった.