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□誰にも
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痛烈な爆裂音と共に振動する大きな壁、地響きする床。
余りの衝撃にリナリーは驚いて、手に抱えていた書類を床にばら撒いた。
慌てて、音の発信源であろう研究室に駆けつける。

と。

ガラガラと崩れ落ちる城壁、吹き飛ばされて粉々になっている実験器具たち、科学班員十数名。
舞い上がる砂塵と共に視界一杯に広がった光景に、しばしあっけにとられる。



(兄さん、今日は何かの実験してたかしら)



こんな現状を引き起こすには彼女の兄ぐらいしか考えられない。
実際、これまでに何度も引き起こしてきたのだから。
しかし。
はた、と思い当たる。

彼女の兄は今朝方、いつものように任務の説明を終えると、そのまま機密情報入手の為に教団外に出かけたではないか。



(じゃぁ、一体何が・・・)



目を凝らして窺っていると、徐々にはれてきた煙幕の僅かな隙間から見慣れた白髪が顔を覗かせた。
「アレン、くん・・・?」



(どうして、ここに・・?)



今朝、任務の説明を受けた彼はその足で確かに部屋に戻ったはずなのに。
出発は翌朝だが、生真面目な彼は資料にちゃんと目を通そうとしていて、鍛錬の為にも一旦部屋に戻らなきゃと言って。
「アレンく・・・」
声をかけようとして、その状況におかしさに気をとられた。



発動している左手のイノセンス。
背を向けている為、顔は見えないが彼は可笑しそうに体を丸め、揺すっている。

「っぷは!あはははは!」
耐えられないという風に大笑いして右手を腹部へ、左手のイノセンスでデスクをがんがん叩く。
並の状態なら笑い転げるアレンくん、で済むが発動中のイノセンスを叩きつけて笑っている図は、はっきり言って普通の人間からすれば笑えない。
一撃で叩き潰されるデスクたち。
より舞い上がる破片。
更にあがるのは騒音、薬品が混じりあい破裂しはじけ飛ぶ音。




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