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□幸福論
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パタパタと羽ばたく金のゴーレム。それを見て彼女はあら、と足を止めた。
手に持っているマグカップをこぼさない様に少し気を配りながら歩みよる。



(ティムキャンピーがいるのなら・・)



やっぱり。つい胸が弾む。
すぐに声をかけようと開いた口を、一旦閉じる。
前髪に触れ、確認するように自分の姿を見下ろす。



(変じゃない・・よね)



そう思い直してようやく、戸口から後ろ姿の彼に声をかけた。
「おはよう、アレンくん」
その声に動きを止めてくる、と彼は振り返ると、彼女の姿を認めてからにこりと笑った。
「おはようございます、リナリー」





「探し物?珍しいね、科学班の書庫でなんて」
と、手の中のマグカップにふーと息を吹く。
「ええ、ある本を探してて聞いたら、ここにあるって事だったんで」
棚に眼を戻す。
よっぽど探していたのか、腕をまくり少し顔を曇らせたアレンにリナリーは笑みをこぼした。
「手伝うよ、何て本なの?」
「ちょっと古い本なんです。養父が持ってたんで知ってるんですけど」
そう、と耳を傾けながらマグカップを置こうとする彼女。
しかし彼はそれを手で制した。
「僕1人で大丈夫です。服、汚れちゃうといけないんで」
手のひらを見せる。確かに黒くなっている。
見ると彼のシャツ、額にも少し煤がついている。
「せっかく、綺麗な服なんですから」
中国のですか?と少し珍しげにリナリーを見つめる。
そんなアレンに彼女は気恥ずかしげに答えた。
「うん、たまにはいいかなって思って」
「かわいいですよ、似合ってて」
かぁ、と一気に彼女の頬に朱がさした。
嬉しくて、胸がはやる。
「あ、ありがとう」
耳まで赤く染まっている。


再び探し始めた彼を見てリナリーは、火照る頬のまま壁沿いに腰を下ろした。

(申し出は断られてしまったけれど。
せめてもう少し、このままここに)


                      
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