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□月夜の下
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澄んだ空気。漆黒の空。浮かぶ無数の星。
あと幾日かで満ちる月が、美しく揺らめく木々、たゆたう湖、その他地上全てのものを
装飾するかの様に照らしている。



さらり、と吹き抜ける風がリナリーの輝く黒髪を艶やかに揺する。
だんだんと寒くなってきた外気に撫でられ、彼女はふる、と小さく身をすくませた。
「寒いですか、リナリー?」
一見分からない程微かに震えた彼女だが、お互いの肩が触れ合っているせいだろう。
アレンが気遣わしげに彼女を見た。
月夜の中で見る彼は、全体が輝いていてとても、キレイだ。
少し羨望の色が彼女の瞳に宿ったが、それは一瞬。
すぐに掻き消える。
「うん。ちょっと、ね」
彼女は小さく言って、地面に手をついている彼の手に自らの手を重ねた。



(あったかい)



そんな事でも嬉しくて、思わずこぼれた彼女の笑み。
どこか誘う様に彼の手をそっと握り、擦りつくように頬に寄せた。
赤く、十字の穿たれたその手が答えるように彼女の頬、額、唇と撫でてゆく。
気持ちよさそうに彼女は、そのまま彼の手の流れに身をゆだねる。
その左手が何度目か彼女の唇をなぞった時、彼女の両手がやんわりと包み込む様に彼の手を捉えた。



その手の温かさにリナリーは再び嬉しそうに微笑むと、お返しする様に彼の赤い手に口づけてゆく。
手の甲、指の腹、指先にと何度もいつくしむ様に唇を寄せる。
時に舌を這わせて、舌先でなぞる。
 


                           
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