宝物部屋

□希望率つる舞姫
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鎌倉の追っ手を退け、望美たちは一度京へと戻ってきていた。
源兵が、この都にはあまり配されていなかったのが幸いしたのだ。
そして―――九郎が望美の世界へ行くと決意し、五日が経過していた。

出発を明日に控えた今日、ふたりは望美の要望で神泉苑を訪れていた。

「ここで九郎さん、私のこと許婚って言ってくれたんですよね」
「方便だったがな」

彼女の言葉に苦笑し、まさかここまで引きずるとはな、とぼやく。
九郎の言い草に、望美はぷぅ、と頬を膨らませた。

「今でも、嘘なんですか?」
「まさか」

即答して華奢な体を抱き寄せる。
耳元に唇を寄せ、囁いた。
「―――お前は、俺の許婚だ」
「……ん……」

甘い声に、望美はくすぐったそうに首をすくめた。
九郎は彼女の額に口付けを落とし、さらに腕に力を込める。

逞しい腕に包まれながら、望美はここ数日間の疑問をぶつけてみた。

「―――九郎さん」
「ん?」
「本当に、いいの?」

意図が分からず、九郎は望美の顔を覗き込み首を傾げた。

「何がだ?」
「だから、ね。…本当に、私の世界に来ちゃって、いいの…?」

一度行ってしまえば、もう二度と帰ってこれないかもしれない。
それでも、本当にいいのか。

彼にこれ以上後悔をしてほしくない。
誤った選択をしてほしくない。

そんな思いが、望美の胸中を渦巻いているのだ。

「俺がこの世界にいればまた戦が起こる。新しい血が流されるよりはずっといいさ。―――それに」

望美の頭を胸に押しつけ、もう一度囁きかける。

「―――お前とともに在れるなら、どこにだって行ける」
「九郎さん…」

頬を朱に染め、望美も九郎の背に腕を回した。
確かに聞こえる彼の鼓動が、生きている証が肌を通じて響く。
彼の胸に顔を埋め、望美は眼を閉じた。
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