語られない小話

□冷たくて美味しくて
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「ん、美味しい」

「…そうか」



帝国の暖かい地方に機関の任務に来て二人の執行者は任務を楽に終わらせて軽くオフな時間をとっていた

危険な任務も多い執行者だが今ばかりは平和な時間がゆっくりと流れている



「レーヴェも食べる?」

「いや、遠慮する」

「…何で?」

「あまり腹が空いてないだけだ」



任務に来た石造りがメインの町の適当な出店で買ったストロベリーの螺旋状のソフトクリームをレンが勧めてくるがレーヴェは自分の体に正直に遠慮する

中央にそれなりの大きさの噴水がある公園のベンチでゆっくりと座ってのんびりと時間だけが過ぎていく



「…美味しいのに」

「またの機会に食べさせてもらうさ」



また一口ソフトクリームをペロリと舐めたレンは何故か軽く機嫌を損ねて見えたがレーヴェは自然と笑顔がこぼれる

こうしているとレンは普通の女の子で…

二人で一緒にいると仲が良い兄妹にも見えるかもしれない



「何で笑ってるの?」

「いや…何でもない」

「気になるじゃない、教えてよ!」



自然と出た笑顔を維持したまま会話を続けるとレンはレーヴェの笑顔が珍しいと言わんばかりに突っかかってきた

ソフトクリームを右手で持ち、左手に座るレーヴェの腕に絡みついて話すまで離さないと言わんばかりに強く抱きつく



「危ないからちゃんと座れ」

「むー…」



今日のお姫様は機嫌が悪いな、と冷やかしの言葉が口に出そうになるがそれをとどめる

これ以上に拗ねさせても良い事もない



「…つまんない」



だが、今日は彼女に自分がどう気をつかっても拗ねて不機嫌にする事しかできないのかついにはそっぽを向かれてしまう

抱きついていた腕も離れて遠くを見ながらソフトクリームを再び食べだす



「………」

「………」



元々あまり口を開かない自分だからレンが黙ってしまうと無言の静けさだけが漂ってしまう



「…レン」

「………」



無言の気まずさのまま放置しておくのもいたたまれず、レーヴェから口を開き…

レンは名前を呼ばれてソフトクリームを食べるのを一時中断する



「…一口だけ貰っていいか?」

「…さっきはいらないって言ったのに」



そう言ってレンはまた拗ねてみせるがソフトクリームを両手に持ってレーヴェに向ける

レーヴェは素早くソフトクリームを一口貰い…



「美味いな」



そう一言だけ言った

そんな無口なレーヴェを見て、今度はレンが微笑む



「…どうした?」

「…レーヴェも秘密にしたから私も内緒!」



おそらく、レンもレーヴェも考えている事は大して変わらないのだろう

だが互いに自分の口から言う事はなく、今の時間をのんびりと二人で過ごせればと…



「…ヨシュアもいたら最高なんだけどね」

「そうだな…」



考えている事を先回りしてかレンが素早く口を開いた

まるで、自分達が兄妹みたいと感じているならもう一人兄妹みたいな人物がいる



「そのうち三人で一緒にソフトクリームを食べれるさ」

「…ほんと?」

「ああ」



少し寂しがるレンの頭を撫でながら励ましてやる

それで機嫌が良くなったのか…



「うん、このソフトクリームはやっぱり美味しいわね」



再びソフトクリームを一口食べて素直な感想を口にした








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