dream
□これは恋といわないで
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さっきから意味がわからないを連発する彼に、どうにかしてそれ以外の言葉で状況を説明してもらいたい。あたしにしてみれば、そんなことを言う彼自体、意味がわからないのだ。
「いきなりもう疲れたはないでしょ」
「確かにね」
彼女に一方的にキレられて、意味がわからないまま喧嘩して、最終的に距離を置こうと言われた。彼の話を要約すればこうゆうことだった。意味がわからないとぼやきたくなるのも頷ける話だ。だけどそれを聞かされるあたしの立場はどうなるのか。好きな相手と彼女との問題を聞かされるあたしの精神状態は。
「嫌なとこがあるならその場ではっきり言ってほしかった」
「でもなかなか言えないよ。我慢しちゃうのはわかるな」
「じゃどうしたらよかったワケ?」
知るか、そんなもん。
「まぁ彼女もさ、別れたくないから距離を置きたいって言うんだと思うよ」
「そうかな」
「うん。別れる気があるなら、もうとっくにさよならしてるでしょ」
そうだよ。かわいい喧嘩じゃないか。こんなふうにぶっきらぼうに投げ出してやれたら気楽でいいのに。話を打ち明けられれば、親身になって聞いてやりたいと思ってしまう。あたしは偽善者だ。あなたのためを思って言ってるのよ、なんてふうを装って最低だ。本当はこのまま相談相手のあたしを好きになってほしいのに、言えない。
ああ、馬鹿だ。あたしは自分を彼にとっての相談相手と認めているのだ。誰に諭されなくても自分が一番、不毛だと気づいている。大きな証拠だ。
「仲直りできるよ」
「無理。ぜってー無理」
「意地っ張り」
「意地っ張りなのはあっちだから」
彼に向けた言葉だっていうのに当たり前のように彼女に変換する。今彼女の話はしていない。だけど目の前の男の世界は、彼女を中心に回っているのだ。あたしはそれを外界から見ている傍観者でしかない。本当の意地っ張りは彼でもなく彼女でもなく自分だということに傍観者は気づかない。
「とにかく、今は連絡取ろうとしても逆効果だよ。ほっといたほうがいいと思う」
「…だよね」
そんなあからさまに肩を落とさないでよ。あたしまで悲しくなるでしょうが。などと可愛くない台詞は飲み込んだけれど、本当に落ち込むのはやめてほしかった。世間一般的に見て、あたしの立場からすれば好きな人が彼女と喧嘩して好都合なのかもしれない。でも実際こんな場面に遭遇すると思うのだ。あなたが悲しいと私も悲しい、と。
「大丈夫?」
「うん」
所詮、人間なんて自分のことしか考えていない。他人の痛みに同調して自分も心を痛めるなんてきれいごとだと思っていた。よくドラマや漫画のヒロインに有りがちな利他的な思考回路があたしにも存在していたとは。それじゃヒロインになれるかな?心の中で問いかけてみる。無理だ。あたしは、叶わない恋なんですと嘆くつもりはない。順番さえ違っていればと悔やむこともない。
「話して楽になったよ。聞いてくれてありがとな」
あ、今の笑顔は反則。
「そうやって彼女の前でも素直になれば?」
「え、無理」
「なんで」
「僕は悪くないし。意味がわからない」
「強情ー」
あたしも意味がわからないよ、好きなのにこんな気持ちになるなんて。本当は彼女のようにあなたのことを困らせてやりたい。だけどそんなことはできないから、やっぱりあたしは偽善者になってしまう。口をついて出る言葉は真実であって嘘だから。
「早く、仲直りできるといいね」
これは恋といわないで
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