短編集

□夕焼け空
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とても肌寒い真冬の日。
冬は空気が乾燥しているから、空がとても綺麗に見える。


日が落ち始めた、夕時。
空は真っ赤な夕焼け。
静かにさす光は、部屋を燃えるような赤に染める。
普段なら、心配になるほど白い君も、今は夕焼けの赤に染まっている。


けど、何だかそれは君の血に思えて、私は自分の足もとに目を伏せた。





「今日の夕焼けは一段と綺麗だね。部屋が真っ赤だ」

「うん、そうだね」





本当は、夕焼けは好きじゃない。
小さい頃は、夕方になると皆帰ってしまったから、帰り道が寂しかったものだ。


夕焼けは、私にとって終わりの合図みたいなもの。





「……どうしたんだい?暗い顔をして」

「え?ああ、何でもないよ」





今日の夕焼けは、いつしか夢で見た光景と似ている。
その夢は、私の昔の記憶の一部で……。
大事な人たちが、いなくなってしまう夢。




その時は、一瞬のことで、何が起きたのか理解できなかった。
辺りは崩れ散乱して、人々は潰れ息絶えて……。

赤で染まった世界。

夕焼けのせいで、どれが血でどれがそうでないのかが分からなくなるほどの。




やがて意識は朦朧として、体は段々と冷えていく。

動かない。動けない。
痛い、苦しい。





「っ!ごほっ……!!」

「な、はんべ――」





咳き込む君へと伸ばした手。




それは、何も触れた感覚を残すことなく、君をすり抜けていった。





「……あ……」









夕焼けは終わりの合図。
あの日、あの夕焼けの下で、私は私自身の終わりを迎えた。




そして、夕焼けは孤独な時間。

止まっていた時が動き出して、今、君と私は孤独になる。





「……だから、私は嫌いだな」





この赤を見るたびに、私は大事なものを無くすから。






夕焼け空






(好きだったのに、な)
 

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