進若A

□イナイミライ
1ページ/2ページ




「永遠ってコトバ、あるのかな」


耳に流れ込んだその歌詞を口に出してつぶやくと、
隣にいた彼が、私を見た。


「……」

「あ、歌です、歌」


空港内にあるカフェで流れる邦楽の有線。
誰の歌かはわからないけれど、聞き覚えのある歌。
きっと彼は、耳にしたことがあったとしても、覚えてなんかないはずの歌。


「もうすぐですか?」
「ああ」


ガラス越しに、空港内の時計台に目をやった。
この横顔。
初めて会った時よりも、ずいぶん大人びたなあ。
私にとって、彼を「子ども」だと感じたことなんか、1度もなかったけれど。


「帰ってきますか?」
「…ああ」
「なんだか、帰ってこない気がするんですけど、進さんは」
「メディカルチェックが終わったら一旦戻ってくるし、シーズンが始まってもオフには」
「そうじゃなくて」
「……」
「ああ、なんだか、…ごめんなさい」


飲みきっていたカフェラテのストローを口にくわえてしまった。
動揺・してる、私。


「進さんには、日本じゃ狭すぎる気がして」
「向こうは、若菜が思ってるほど甘い世界じゃない」
「そうですけど、そうだと思いますけど…、感じるんです」
「感じるとは」
「進さんが、向こうで、大活躍するっていう・未来を」


何の根拠もない。
身内の贔屓目?
そうかもしれない。
私は彼しか、見てこなかったから。


だけど、だから。


「捨てていいですよ」
「……」

「私のこと」


震えた手の先、指の先。
指輪のはめられた薬指が、鈍く疼いた。


「若菜」


真剣な目をしていた。

私なんかに、真剣になることさえ、申し訳ないのに。


「永遠なんてないなら、いつか終わるなら…今がいいんです」
「若菜」
「未来を、自分の未来を考えるのが怖いです」


「若菜」


何で、名前を。

もう彼がそう呼ぶことがないとしたら。

もう、彼が私を若菜と呼んで、抱きしめることがない・未来。



「進さん…」



チカイ未来も・遠いエイエンも、

考えることがとても怖いんです。



それを口にしたら、彼は何も言わずに、手を握った。



これがサイゴ?


それとも、コレカラ?



間抜けな着信音が鳴った。
私のポケットからだった。




「そろそろ時間だけど、大丈夫か?」




気を遣うように、高見さんの声。


涙声は、返せないから。




「トリアエズ」


サヨナラ。



君は、トオク。


私のイナイミライへ。




END
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ