OTHERS

□狼谷君の取材
1ページ/2ページ




「あれッ?また来たんだ?注目されてんね〜オレ!」


雪が降り積もり、外気の温度はとっくに0度を下回った、冬の日。
東京から訪ねてきた私の顔を見るなり、狼谷君は嬉しそうに笑った。
狼谷大牙。北海道No.1チーム岬ウルブズのエース。

同じ高校生同士なら取材対象も心を開きやすいし、記者側も取材をしやすいだろうと
「月刊アメフト」での一角の記事を任されたのだが、実は取材がスムーズにいったためしなど無い。
関東各地を代表するチームのエースたちに様々な話を聞いて回っているものの、
皆個性が強すぎて、毎度相手のペースに流されてしまっている状態である。


チームに用意していただいた談室に入るなり、狼谷くんはテーブルに足を乗せた。
大きな態度。そして、見惚れてしまうような・長い足。
ああ、これではいけない、と早速取材用のノートを取り出した。


「今回の関東大会は、多くの人の予想を覆した泥門の優勝で幕を閉じたわけですけど、
 関東大会以降、次の大会に向けて特に強化していることなどはありますか?」

「狼谷大牙がいる限り無敵って書いといてよ、ハハッ!」



相変わらず、だ。



北海道に来る前に寄った白秋のマルコ君へのインタビューだって、
重度の秘密主義である彼ははぐらかすばかりで何も教えてはくれなかった。
この調子で良い記事に持っていけるのかどうか。
まだ取材は始まったばかりだけれど、不安が募る。


「変わらないですね、狼谷君」

「変わんないよ?最強だもんね」

「…じゃあ、次の質問です」


質問リストに目をうつした。
自分なりにいろいろと考えてきたアメフトに関する質問と、読者から寄せられた質問が並ぶ。
どれを聞いても同じことを言いそうな予感をさせながら、次項の質問を口に出した。


「3年生が引退して新チームになるわけですが、今の段階の新チームは自己評価としてどうでしょうか?」

「サイキョー」

「…はい」

「俺がいるからさ!ハハッ」



やっぱり。

いつもこんな調子で、誰かと衝突する事はないのかな。
きっとないんだろうな。「それ」を突き通すから、向こうが折れる。
ある意味羨ましくもあるかもしれない。真似する事は絶対にできないけれど。


「疑ってんだろ、お前」

「はへ?」


「次はぜってぇ関東優勝すっからさ、俺のことずっとマークしといたほうがいいよ」

「…はい」

「またすぐ来いよ。お前の取材面白いし。」

「え?」


面白い、取材?
そんなこと・初めて言われた。
いつも全力でぶつかり過ぎて空回りする取材ばかりなのに。
少し嬉しくなって微笑むと、狼谷君は思いきり私の顔を指さして笑った。


「だっておまえすぐ顔に出るからさ!」

「は?」


つい・ぽかんと口を開けてしまった。
記者として面白いってことじゃなくて、か。
またあからさまに残念そうな顔を浮かべそうになるのを無理やり引き締めて狼谷君を見ると、
彼は口の端に笑みを浮かべていた。


「俺の事、口ばっかだって思ってんだろ」

「は、いいぇ!そ、そんなこと!」

「今に見てろよ?」

「…?」


「本気で俺に夢中にさせてやっからよ!」



記者として・ってこと、のはずなのに。
悔しい事にどきどきしてしまった。
思わず顔を赤くしたら彼はきっと・また良い気になって笑うから。


(き、きたいしてます…っ)
(ははっ、声震えてんぞ)
(なっ!)
(あれ?もう既に俺に夢中だったり?)


岬ウルブズ・狼谷大牙。
彼の取材は難しくも、まだまだ続きそうです。



END
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ