OTHERS

□夏祭り2
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「おっせぇーよ花梨!」


「ごごごめんなさい、棘田先輩…!」


帝国アレキサンダーズのQBふたりがいるのは、大阪最大級の夏祭りの会場。
遅れてきた花梨をいつものように怒鳴りつけて、棘田は先に歩きだした。


別に2人が約束をして向かったわけではない。
荷物持ちならどこにでも付いてきて当然だろうと言いつけて棘田が呼び出しただけである。
しかし、そんな彼に困り顔を浮かべながらも決して言いつけに逆らわない花梨との間に「何か」があることは、
一部のチームメイト達にはうっすらと感じてはいることだった。


「っ、浴衣くらい着て来いよ、色気ねぇな」

棘田が私服の花梨をにらみつける。

「す、すいません…」


本当は着ようと思っていた。
遅れてしまったのもぎりぎりまで悩んでいたから。
けれど浴衣を着て歩くのが遅くなることで先輩をいらつかせてしまうことは嫌だったし、
浴衣を着てはりきっていると思われるのが恥ずかしくて、着てこられなかったのだった。

これでもお洒落な方の服を選んだつもりやったんやけど、また嫌われてもうたわ…。

さきさき歩く棘田の後ろを追いかけながら、花梨がそっと息をつく。

賑やかな夜店が並ぶ夏祭りの光景は、いくつになっても心が躍る。
けれど、人ごみに揉まれながらもきょろきょろと楽しそうに歩く花梨と反対に、
棘田は上手く人をかき分けながら進んでいく。

お祭りがあまり好きではなさそうなタイプの棘田が花梨を夏祭りに呼び出した所以は、
気になっていたものの、改めて聞く勇気はなかった。


「っだから、花梨!」

ずいぶん離れてしまったところで、棘田が花梨を呼んだ。

「はいぃ…!」

今すぐ近くに行かなければいけないのだが、人の波が花梨をさらってなかなか近づくことが出来ない。

あやうく窒息しそうになりながら呼びつけた彼の方を見ると、彼はするどい眉を吊り上げながら、こっちへ向かって来た。

「あー、どんくせぇ!」

人混みをかき分けて、棘田が近づいてくる。
どうしてそんなに上手く進めるのだろう。
花梨が押しつぶされそうになりながら彼を待つ。

すると、棘田が花梨の手を取って引っ張った。


「俺から離れんなよ!」

「ふゎぃ…」

「っ、変な声出してんじゃねえ」


花梨の手を取って、棘田がまた進みだす。

彼の冷たい手を握り返すべきか悩みながら、花梨はすぐ後ろを付いて行った。



周りから、どういう風に見られているのかな。



「…棘田先輩、」

「あ?」

「浴衣、着てくれば良かったです…」

「おせーよ今更」


ああ、また。
棘田先輩を怒らせてばかり。


だけどそれは、いつものこと。



「先輩」

「あぁ?何だよいちいち」


「…かき氷、食べません?」



浴衣は着られへんかったけど、
今日だけは、ちょっとだけ、
「女の子」のふり、させてください。


(…勝手にしろ)
(ほな先輩のぶんも買ってきます!)
(っだから俺から離れるなって、花梨!)


END
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