OTHERS

□cheer
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チアリーディング部の練習の帰り道。
練習後に部員たちと喋っていていつもより遅くなってしまった乙姫は、
校門を出ようとするひとりの人影を見つけて、少し離れた階段から声をかけた。


「水町君!」


「ン?お〜!乙姫じゃん!」


歩みを止めた彼のもとへ乙姫が走ると、彼は変わらない笑顔で迎えた。
いつも大勢で帰っている彼には珍しい、たった一人の帰り道。

「今日はひとりなんだ?」

「アァ、病院行ってたから」

神龍寺という他県のチームとの練習試合で怪我した腕を見せて、水町は笑った。
見ているこっちが痛々しくなるほどぐるぐる巻きにされた状態でも、彼は辛そうな顔を見せずに笑う。
ひょっとすると、子供っぽく見える彼は、実はとても大人なのかもしれない。

「乙姫は?」

水町が乙姫の顔を覗き込んだ。
ドキン・と、胸がはねるような想い。
心臓の音が、彼に聞こえていなければいいけれど。

「れ、練習。チアの」

「ンハッ!そーかー!乙姫達いつも試合来てくれるもんな!」

いつものように頭の後ろで手を組めないから、
けがをしていないもう一つの手はぶらんとぶら下がり。
一緒に帰ったことを喜びながら、手をつないではいけない関係が、少し・切ない。

「行くよ、絶対」

水町君の頑張ってる姿を、応援したいから。

「サンキューな」

彼がまた笑った。
彼の笑顔は見慣れてしまったけれど、今日は、今だけは、自分だけに向ける笑顔。
乙姫はぎゅっと自分のこぶしを握って、隣にいる彼を見上げた。


「ひとつ聞いてい?」


「ンハッ!なんだよ!急に〜」


「…私たちの応援、聞こえてるかな?」


くだらない質問だったかもしれない。
応援はしょせん応援で、頑張るのは私たちではなく彼ら。
だけどスタンドから声を飛ばすたびに、自分の声が届いているのか、不安になる。

水町は少しだけ驚いた表情を見せると、また、笑顔になった。


「あったりまえだろ〜!」


けがをしていない手が、乙姫の頭を小突いた。
手加減が無くて、小突かれたところはじんと痛みが走ったが、
それは涙が出るほどうれしくて。


手も繋げない
手の届かない 彼のために
私はずっと、
声を届け続けるから。



「頑張ってね、ずっと、応援してるよ」



ずっと、ずっと。


想いが届く日がいつになるかは、わからなくとも。


END
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