OTHERS

□コドモ以上オトナ未満
1ページ/2ページ



彼女が乗りたいと言ったブランコに乗ったのは、何年ぶりだっただろう。
懐かしい、ような、懐かしむにはまだ気恥ずかしいような。
大きく漕ぐと体が地球から切り離されたような不思議な感覚がして、
子供のころに感じなかったような小さな恐怖心さえも。

「懐かしいね」

小春が大きく揺らしながら、隣にいる俺を見て笑っていた。
彼女はどんな子供だったのかな。
人の事は言えないけど、身長も顔もまだ子供らしい彼女だから、
想像するのは全く容易いことだ。


「て、て」

小春が右手を鎖から離して、こちらに差し出した。

「て?」

「手」

ああ、手をつないでみよう、ということか。

左手を差し出して彼女の手を捕まえようとするけれど、
揺れるブランコのタイミングはばらばらで、なかなか捕まらない。
やっと捕まえると今度はブランコが横に揺れて、間隔の狭い二つのブランコがぶつかった。

「難しいね、意外と」

何が楽しいのか、彼女が明るい声をあげて笑った。
不規則な揺れを楽しむように、彼女がもっともっと大きく漕いだ。
いったいこれの、何が楽しいのか。

ブランコから降りて、隣の小春のブランコの鎖を両手で掴んで抑える。
だんだん、揺れが、小さくなる。

「甲斐谷君…?」

残念そうに眉を寄せて、小春が上を向いた。
彼女の顔に、俺の影が落ちる。


「て、」

ブランコから降りた小春の手をとって、もう一度、キス。
公園のブランコなんて、子供っぽいシチュエーションだけど、
160センチにならない俺達だけの、特別な場所なのかもしれない。

end
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ