OTHERS

□ゆきのはなし
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「甲斐谷君!」

俺の名前を大きな声で呼んで、走ってきた彼女の頬は、薄くピンクに染まっていた。
雪の降る中を、白い制服の上にダッフルコートを羽織り、白い手袋をして走ってくる彼女はまるで
童話に出てくる妖精のように可憐で、そして、儚くて。
また痩せたんじゃないかな、と思っているうちに、彼女は息を切らせながら俺の目の前に飛び込んできた。

「ごめんね、遅くなっちゃって…」

言い訳をすべきかするまいか。
そう迷っているように、彼女は2.3度きょろきょろと目を動かした。
彼女が王城ホワイトナイツのマネージャーをしていて忙しいことは承知の上での付き合いなのだから、
いい加減こちらに気遣いをしなくても良いのに、と、ずっと前から思っていた。
俺も今来たところだから、とありがちな言葉をかけようとした瞬間、彼女がはっとしたように顔をあげた。

「甲斐谷君!雪!雪!」
「は?」

細い手が、ひらりと俺の頭の上を撫でる。

「雪、積もってた」

そう言って、暖かい笑みを、小春が。

「甲斐谷君の髪は、雪みたいだね」

彼女が笑いながら、すっかり冷たくなった銀色の髪を撫でた。
ふわり、ふわりと、凍りついた猫っ毛が、溶かされていく。
まるで、おとぎ話の世界のように。

「小春」
「はあい」
「…いや、なんでもない」
「なに?」
「…行こう」

君と繋ぐはずだった手を、ポケットに突っ込んで。
3歩前を歩き出す。
本当は並んで歩きたかったけれど、
この赤くなった顔を、どうしても、見られたく無くて!

( 雪に舞い上がる心のように、
君に舞い上がるこの心は、
いつまでも慣れやしないみたいだ。 )


END
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