OTHERS

□ひたすらロマンチック!
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「今から出て来られないかな」


震える携帯電話のせいで目を覚ましたばかりの若菜の耳に、
いつ聞いても明るくはっきりとした物言いの彼の声がこだまして。
若菜は布団の温もりを惜しむように、携帯電話を耳にあてたまま寝がえりをうった。


「出て来るって…どこにです?」


いつまで経っても抜けきらない敬語。
彼が要らないと言っても、唯一譲らなかったのがその敬語。

若菜はまたうとうとと目を閉じながら彼の返答を待つと、
彼は少し笑いながら、いつもよりも一層胸を張るような言い方で答えた。


「小春の家の前」

「へえ…」


暫しの沈黙。
枕もとに置いた目覚まし時計の針の音がいやに耳につく。
時間は深夜。
そして、彼は大阪に住んでいるはず。



「……どういうことですか…?」

「だから、今お前の家の前にいるんだよ」


「えぇ?!?!」



ようやく彼の言っている意味を理解して、若菜は布団から飛び起きて
閉じたままのピンク色のカーテンを引いた。

東京といっても住んでいるのは流行らない商店街にある八百屋の2階。
時間が時間だけにシャッターの降り切った商店街の街頭の下で、
若菜は彼の姿を見つけて小さく声をあげた。


「驚いた?」


自信ありげな声と合わせるように、屈託のない笑顔を、目が合った若菜に見せた。

少し癖のある髪・整った顔・ライダースジャケットにジーンズというカジュアルな服装に身を包み、
八百屋の下で携帯を片手にしている彼は、紛れも無く、大和猛。

若菜は部屋の窓を開け、身を乗り出した。



「なんでっ、ここにいるんですか…!」



静まりきった商店街に、若菜の声が響く。
大和は携帯の終話ボタンを押すと、再び自信げな笑顔を見せて言い返す。



「小春に会いたくなって来たんだ」
「なっ…」



少女マンガのヒーローだって、イマドキそんなこと言わない。

若菜が顔を真っ赤にして言葉を詰まらせていると、
大和は真剣な表情を2階にいる若菜に向けて言った。


「明日、アメリカに行くんだ」
「…ああ、」


全日本高校選抜。
そういえば、進や桜庭、高見も明日だと言っていたはず。
その集合のために東京に来たのだろう。
けれど明日アメリカに経つ彼にわざわざ来てもらうなど、とても申し訳ない。
若菜が困ったように笑みを浮かべると、大和は大きな手を上にあげて手招きをした。


「降りてきてくれないかな」

「え?でも…私もうパジャマですけど…」

「それでもいい」

「…はぁ」


「今すぐ抱きしめたい」

「…!」


「あと…」

「…あと?」


「長く会えなくなる分のキスもしたいしさ」

「!!」




そんなこと
少女マンガのヒーローでも
言わないよ!







「で、降りてきてくれるよね?」


「や、やっぱり降りるの嫌です…!」






(大好きな完璧な彼はひたすらロマンチック!)




(深夜、広げたその腕の中に・ひたすらキラキラが詰まってる)
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