遙か3

□呼ぶは君の名
2ページ/6ページ


こんもりと膨れ上がった布団を見て、ため息を漏らす。


「ちょっと。いい加減起きてよ」


布団を剥すと中から銀髪が覗く。


「ん…」


小さな呻き声が聞こえたと思ったら、布団を奪い返された。
これは無理だと思い仕方なくキッチンに飲み物を取りに行く。

会って以来、何かと私の家に来る様になった知盛。
昨日も急にやって来て泊まっていった。

別に何をするでもないからいいのだが、ベッドを使って寝るのだけは止めて欲しい。
なぜ家主の私がソファーで寝なきゃいけないの。

お茶を手にリビングに戻ると、ベッドの上に眠そうな目をした知盛が座っていた。


「やっと起きたの」

「ああ…」

「もうお昼だよ」


自分が早起きな方だとは思わないけど、こいつは私を上回る人間だ。
放っておいたら丸一日平気で寝てるだろう。


「今日昼ご飯無いから食べに行くけど一緒に行く?」

「行く…」


のんびりした返事が返ってくる。
まあ普段と大して変わらないけど。


「なら顔洗って着替えて!」

「んー…」


腕を引っ張り洗面所に向かわせる。
まるで小さな子どもの母親になった気分だ。
毎日やるなんて世の母親は本当にすごいと思う。


「どこ行くんだ?」


ようやく目が覚めてきたらしい知盛が聞いてくる。


「給料日前だから安い所」


出掛ける準備をしながらそう返す。
何せ二人分支払うのだから、その位は譲歩して貰いたい。


「美味ければ何でもいいさ」

「そういう考え方好きよ」


軽く微笑むと知盛も口角を上げてきた。

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ