遙か3
□oasis
2ページ/4ページ
「はいどうぞ」
濡縁に座る景時の横にお茶を置く頼子。
淹れたての証の湯気と共に茶の香りが景時の鼻をくすぐる。
「うん、美味しい」
「良かった」
美味しいと言われ頼子は胸を撫で下ろした。
お茶淹れなどにもやっと慣れてきたところなので、そう言われるのが嬉しいらしい。
「平和ですね」
湯呑みを両手で包み込んで、頼子は感慨深げに呟く。
「朔も黒龍が帰ってきて幸せそうだし」
「そうだね」
今日も幸せそうな顔をして出掛けていった妹を思い出し、景時の頬も自然と緩んでいく。
やはり血を分けた妹の幸せは嬉しいのだろう。
「今までが嘘みたい…」
不意に頼子が呟く。
ついこの間まで戦があったのが嘘に思える程、穏やかな空気に満ちている世界。
だが頼子の横に座る景時は険しい表情をしている。
「俺なんかがこんな幸せでいいのかな」
そう言う景時の横顔は切なそうで、頼子は胸を締め付けられる感覚に陥る。
「皆を裏切ろうとした俺なんかが…」
声を絞り出す様に言う景時の手に頼子はそっと触れる。
その手は声と同様に小刻みに震えていた。