遙か3

□好きな貴女の横顔
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「頼子さん」


不意に名前を呼ばれて頼子は振り返る。

そしてあいつを捉えた瞬間、その目はがらりと変わった。


「弁慶さん!」

「ここに来ていたんですか」

「はい。ヒノエが案内してくれたんですよ」


頼子は楽しそうに話すけど、それに心が締め付けられる気分だ。


「そうですか。ここは熊野でも本当に良い場所ですからね。気に入って貰えたなら良かったです」


弁慶がにこりと笑うと頼子も微笑む。
そのやり取りが見せつけられている様で腹が立つ。


「あんたは何しに来た訳?」

「勿論頼子さんを迎えに来たんですよ。彼女とは恋仲なんですから」


さらりとそう言う弁慶に頼子は頬を赤らめる。

笑顔でそれを言うのが俺に対する牽制なのは分かっている。
しかしあれだけ望美と仲良く話していたくせによく言える、と思わず悪態を吐きたくなる。


「なら2人で先に帰りな。俺は少しする事があるから」


必死に弁慶への悪態を堪えて、頼子の背中を軽く押す。


「でもヒノエ…」

「いいから」

「ヒノエもこう言ってます。戻りましょう」

弁慶はそっと頼子の肩を抱き寄せて歩き出した。
頼子は困ったように振り返っていたけど弁慶と話しながら帰っていった。



「らしくないな…」


独り言を呟く。
いつもなら奪い取ってやろうと思えるのに。
何故か頼子が相手だとそれが出来ない。


「泣き顔は見たくないんだよ」


自嘲しながら言葉は吐き出す。

奪うなんて真似をすれば、間違い無く頼子の涙を見る。
もし涙を見なくても決してあの笑顔も見せてくれない。

 
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