遙か3
□それは魔力の様で
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遠くに犬の鳴き声が聞こえる。
風呂上がりの火照った体に夜気を含んだ風が心地良い。
「くーろー!」
庭に面した縁側に座った頼子が大声で呼ぶ。
「そんな大きな声を出さなくても聞こえる」
「まあ、いいじゃん」
ケラケラと笑いながら頼子は手を動かす。
どうやら来いという意味らしい。
「お前もうそんなに飲んだのか」
自分が腰を下ろしたのとは反対側に、十本近い銚子が置いてあった。
「全部は空じゃないからねー?」
間延びした答え方で頼子は銚子を振る。
微かに酒の跳ねる音がするので、それにはまだ中身があるらしい。
「九郎も一杯どう?」
「ああ、貰おう」
そう返事をすると盃に酒を注いでくれた。
それを受け取り一気に飲み下す。
少しだけ喉に刺激を感じたが、それもまた心地良い。
「せめて移して飲め…」
隣を見れば、頼子は銚子に口を付けそのまま飲んでいた。