遙か3
□月下に揺れし想模様-後編-
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「ふぅ…」
重いため息が土御門のある一室に響く。
「ここにいたのだね頼子殿」
簾を上げて入ってきたのは橘友雅。
部屋にいた少女─頼子は横になっていた体を慌てて起こす。
「こんにちは友雅さん」
「やあ。少し顔色が悪いみたいだが、どうかしたのかな?」
「ちょっと寝不足なんですよ」
酷い頭痛を隠す様に苦笑する頼子。
友雅はそんな頼子を自分の方へと引き寄せて、頭を自らの膝の上に乗せる。
「友雅さん?!」
驚いて頼子は起き上がろうとする。
だがそれは、肩を押さえる友雅の手によって阻止された。
「辛いんだろう?大人しく、こうされていなさい」
「はい…」
有無を言わせないその口調に、頼子は素直に頭を膝の上に戻す。
友雅は彼女の頭を優しく撫でる。
「あの…」
「ん?」
「そうされると寝ちゃうんですけど」
遠慮がちに口を開いた頼子が言ったのはそんな事だった。
思わず友雅は小さく笑う。
「構わないよ。少し寝なさい」
友雅のその言葉に頼子はゆっくりと目を伏せる。
そして友雅の香に包まれながら、意識を夢の淵に落とした。
「無理をして…私には隠して欲しくないのだが」
友雅は呟き、頭を撫でるのとは反対の手で、彼女の手をそっと握る。
その目には慈しむ様な光があり、どこかいつもと違う雰囲気だった。