遙か3
□遙か、君のもとへ…
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雪も溶けきり、春を迎えた奥州・平泉。
しかしそんな春の穏やかな雰囲気も吹き飛びそうな、やたらと険しい表情の男が一人。
その男は藤原泰衡。
眉間に皺を寄せて、相変わらず迫力のあるBGMが聞こえてきそうだ。
「泰衡様、いかがなさいましたか?」
「…銀か」
音も無く背後に立った従者に、泰衡はもう一本眉間の皺を増やす。
銀の方は主が自ら話すまで喋らないので、何とも言いがたい空気が二人を包む。
「白龍の神子達が帰って随分経つな」
「はい。もう一月は経ちます」
銀がそう答えると、また泰衡は黙り込む。
いつもおかしな主ではあるが今日は酷い、などと思いながら銀は首を傾げる。
「銀、俺も神子達のいる時代に行ってくる」
そんな爆弾発言を投下して、泰衡は颯爽とマントを翻す。
「や、泰衡様?!」
当然訳の分からない銀。
普段の泰衡の行動は腹の中で笑う程度だが、今回はそんな場合でも無い。
何せ時代、と言うか時空を越えるのだ。
だが泰衡は呆然とする銀を残し、その場を去っていった。
「やはりあの人は馬鹿かも知れないですね…」
銀の言葉は柔らかな春の平泉の空気に溶けていったのだった。