遙か3
□好きな貴女の横顔
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「戻るか…」
これ以上1人でいてもロクな考えにならないと思いその場を後にする。
間際に見た、岩にぶつかり砕け散る波が自分の心に思えた。
結局宿に戻ってからも昼間の事を考えてしまい、ほとんど誰とも口を利かずにいた。
夜も遅くなってから庭に出てみると頼子がいた。
「頼子どうしたんだい?」
声をかけるとビクリと肩が跳ねた。
「ヒノエか…ちょっと眠れなくて。ヒノエは?」
「俺も同じだよ」
笑って答えると頼子も笑った。
だけど気付いてしまった。
その目が赤くなっていることに。
「何かあった?」
「何もないよ…」
顔を逸して言う頼子。
「嘘つくなよ」
無理矢理こちらに向けさせ視線を合わせる。
俺の顔を見て頼子は今にも泣きそうになった。
「弁慶さんと喧嘩したの…」
「弁慶と…」
多分昼間自分と出掛けたのが原因だ。
それ以外に弁慶が頼子を責めるなんて事が無い。
「ヒノエ?!」
気付いたら頼子を抱き締めていた。
泣き顔は見たくないと思っていたのに、結局は自分のせいで涙を流させてしまった。
「ねえ頼子…」
オ レ ニ シ ナ イ ?
思わずその言葉を口走りそうになった。
だけど後一歩が踏み出せず、ただ心の中で呟くだけ。
「ごめんねヒノエ。そんな顔させて」
「…え?」
「ヒノエ苦しそうだよ」
頼子はこつりと額を当てて言う。
いつの間にか辛そうな顔になっていたらしい。
「そっか…とりあえず弁慶と仲直りしておいで。あいつは頼子が本当に大事なんだから」
そうじゃなきゃ俺と一緒に出掛けたくらいで怒ったりしないから。
あいつを認めるのは癪だけど、こればかりは仕方ない。
「うん。ありがとねヒノエ!」
するりと腕から抜けて頼子は弁慶の元へ向かった。