□35555hitリク!「三つの欲」
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「………ここ、どこ?」
 やちるは起き上がって辺りを見渡し、目を瞬かせた。
「剣ちゃん?」
 見覚えのない部屋を見渡し、剣八の姿を見つけ首を傾げて問い掛ける。
「おう、目が覚めたか」
 窓際の安楽椅子に座り、酒を傾けていた剣八が立ち上がりやちるに近寄る。
「剣ちゃん、ここ何処なの?」
 目と口を丸く開けて尋ねるが、戸惑いや不安はない。剣八がいることが、やちるの全てなので問題はないのだ。幼い頃、眠っている間に場所を移動していた事が、幾度もあった。今回もそんなことだろうとは思うのだが、ここ久しくないことだったので、少しばかり驚いていた。
「外見てみろ」
 剣八は楽しそうに窓の外を親指で指差す。
「…うわ!何もない!!」
 窓の外は何もないと言うよりも、ただ自然が広がっていた。窓から首を出し、辺りを見渡すが建物が見当たらない。人も見当たらないのだ。
「流魂街…じゃあ、ないよね?」
「一応精霊挺内だ」
 剣八がやちるの後ろから、外を見る。
「ほへー、こんな所あったんだねぇ」
 やちるは感心して、剣八に視線を移す。
「折角の休みだしな。たまにはのんびりと二人きりってのもいいだろ?」
「うん!」
 思いがけない剣八の提案に、やちるは笑顔で頷く。
「でも、ここ綺麗だよね、宿なの?」
 部屋の中は落ち着いた色合いで統一され、やちるの眠っていた布団も高級なものだった。
安楽椅子も剣八が座れるほどゆったりと大きなもので、酒の置かれている卓も上質なものだった。
「ああ、貴族の隠れ宿らしいぞ?」
「へぇー。貴族って変なのー。おっきなお屋敷あるのにねぇ」
「全くだ」
 貴族の感覚などわからない二人は笑い飛ばす。
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