過去拍手SS
□プラマイゼロ
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《プラマイ0》
赤也side
「じゃあ、30分あげるからこの長文訳してみて?分からない単語はちゃんと辞書使って調べてね」
「はぁ〜い」
俺が教科書とにらめっこを始めると、彼女は暇そうに欠伸を一つしてベッドに上がり込んだ。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
「ん・・・?」
背後にいる彼女がせわしなく動く気配がどうしようもなく気になって後ろを振り向く。
見れば、ベッドの上に座っている彼女は何やら夢中になって、小さなぬいぐるみを天井高く放り投げては両手でキャッチを繰り返している。
「・・・何してるんスか、センパイ」
「ひゃ?!ご、ごめん。暇だから、つい・・・気が散った?」
子供じみた遊びを見られ、彼女が恥ずかしそうに笑った。
「そのぬいぐるみ、こないだ遊園地で買ったヤツっスよね?」
彼女の手のひらに乗っている丸くてフワフワして目玉だけが付いてる、正直可愛いとは思えないヘンテコな物体には見覚えがあった。
「うん。赤也にもらったやつよ。この子、可愛いよね?お気に入りなんだぁ」
たいして高価なモノじゃないけど、《赤也に》と言われるとちょっと嬉しい。
けれども、彼女の次の言葉が、俺の心を激しくかき乱した。
「あ、でも、今思ったんだけど、何かちょっと仁王君に似てない?」
「はぁぁぁ?」
何だよ、それ。
「この白いフワフワ感が仁王君の頭っぽくない?」
思いっ切り不機嫌な俺の態度に気付かない彼女は、楽しそうに火に油を注いでくれた。
「ふぅ〜ん・・・」
「・・・?」
彼女の手からソレを奪い取って眺める。
なるほど。ヒトを小馬鹿にするようなこの憎たらしい目付きは、確かに仁王先輩にそっくりだ。
なんかムカつく。
「えいっ!!」
「あっ!?」
俺がそいつを部屋の隅っこに放り投げると、「何するの?可哀想」と彼女が恨めしげに俺の顔を見上げた。
あれ?全然スッキリしねぇ・・・。
むしろ、つまんねぇコトに嫉妬なんかして自己嫌悪。
「あ〜〜っ、クソっ!」
「赤也・・・」
思わず頭を抱えてテーブルに顔を伏せると、背後で小さく溜め息を吐く彼女の息遣いが聴こえた。
やべぇ。今の俺、カッコ悪過ぎだろ。