夢の島

□とげ棘
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 二歩後ろに下がった。三歩目。息を吐く。くわえたシーナイフの刀身が白く曇ったであろう事実は確認するまでもない。

「もう、逃げられねエぜ」

 ざくっと踏みしめた砂利が音を立て、水色頭の侍がニヤリと笑う。殆ど同じ距離を走ったというのに、疲弊しきっているあたしと違って、彼――六は全く平気な顔をしていた。絶倫か化け物か、六がどちらに属するか気にはなったが、二秒でちいさく首を振る。どうでもいいじゃないか、そんなこと。
くるりと身を翻す。ともすればはあはあと洩らしそうになる呼吸を無理矢理に押さえ付けた。走る。

「無駄だっつってんだろ」

 猫が鼠を追うあのどこかうきうきとしたような足取りで六も走り出した。赤い目に、若干の恐怖を覚える。「んぅっ」と言葉にならぬ気合いと共に投げるのは複数のまきびし。本物ではないが、踏むと中々痛く、たかがおもちゃと侮れない代物だ。



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