夢の島

□願わくば冴えろ直感
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「ざんざん降ってますね、雨。あたし傘持ってないんスけど」

「奇遇さね。俺っちも持ってないさー」

 ユンタさんと偶然CDショップで会った。なんでも今日発売される同居人であるDさんのバンドのニューシングルを買いに来たのだそうだ(組織票とかだったらやさしいな、ユンタさん。あたしもおんなじやつ、買ったけれど)。そこまでは良かった。つーか萌えた。だってこの人の発言超可愛いんだもん!! 吹き出すのを堪えるのは大変だったけれど、まあとにかく。
 ただ、10分で良いものを20分も30分も店(話がとても弾んでしまうと忘れてしまうものである。時間を)に居座っていた結果がこれだ。バケツをひっくり返したような大雨。家を出たときはすごい良い天気だったから、傘なんて持っているわけがなかった。天気予報でも言ってなかったしさ!
 ユンタさん今奇遇とか言ってくれたけれど、そんな偶発的なもんじゃないよ、絶対に。

「……あんまり、走って帰れる雰囲気じゃない、よね」
 一方、ユンタさんは健康的に焼けた(まあでも、彼は元々地黒なんだろうけどね)肌と色んな意味で結構な筋肉が示すとおり、体育は得意なのだそうだ。
 尚且つ、今話題のDes家(元々六さんの家だった、らしい)は割に此処の近くで、走って帰ろうと思えば無理ではないと思う。
 でもそれをあたしに気を使って遠慮してるんならすげー優しくない!?つーかちょっと期待して良くない?とかまあ、片想いのアホウがとっさに頭を駆け巡るわけですが。

「そうはいかないしなぁ」
「いや、あたしに気ぃ使わなくても……」

「ほぇ?」

 もし本当にユンタさんがあたしに気を使っていたとしたら、彼も暇でないだろうにあまりに申し訳ない気がする。だから、困ったように笑うユンタさんにもそもそと切り出すと(すごい勇気を振り絞った!)、すごい間抜けな返事が帰ってきた。
 しかしやがて言葉の意味を理解したのか、「ああ」という言葉にならない言葉と共に、ユンタさんは今日の中でもトップクラスの笑顔を浮かべる。

「気とか使ってないさ。そもそも、こんな中無防備で帰ったら風邪引いちゃうし」

 ばしゃばしゃとアスファルトに叩きつけられてしぶきが上がる程に強い雨は、流石に台風の多いらしい沖縄(行ったことないから、どのそれが程度のものかあたしは知らないけど)に生まれ育ったユンタさんでも帰るにはちとキツイと判断したらしい。まあそもそもうたれたら痛いしなぁ、こんな降りようだと。
 それでもそれは、多分嘘だって気付いてしまった。
 一人なら少々雨足がきつすぎてもこの人は走って家まで帰ってしまうだろう。ユンタさんは一種すごい豪快な面もあるし、少々じゃ体調崩さない強い子だしね。

「だから止むまで待とーよ、雨」

 へらっと笑うユンタにこくこくと高速でうなずくあたしの心中で、そんな思いがくるくると渦巻いていた。でもこの憶測が違ったら、あたしただの思い上がりなイタイこだけど。



おしまい。

ユンタさんの可愛さの正体は一体なんなんだろうと思う。

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