小説

□*秘密ありき*
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例えばの話をしよう。

もしも俺が、俺だとばれてしまったら、興味本位で始めた遊びが終わってしまう。

でも現実の話としては、俺は絶対にばれないだろう。

…絶対に。



1.

ピピ、という音と共に明良は目を覚ました。未だぼんやりとする頭で、目覚まし時計がこれ以上の騒音を出さないように手を出して止めた。
「………」
時刻は七時。学校へ行く時間だ。
明良はいそいそと起き上がると、パジャマの上着を脱いで狭くも広くもないキッチンへと向かった。
冷蔵庫に常備してある牛乳を飲みながら、そういえば、と明良は思考を巡らせた。
(今日は、転校生が来るんだっけ)
今は七月の半ば。中途半端な時期の転校生が来るという連絡を、担任の教師が朝のHRで言っていたのは一週間前だ。
「…ま、俺には関係ないか」
明良はそのことについてのそれ以上の考えをやめ、朝食を食べずに部屋へ戻り、学校指定の制服に着替え始めた。


浅野明良(あさのあきら)。私立男子校に通う黒髪の普通の少年だ。変わっていることがあるといえばイギリス人だった祖父譲りの青い瞳ぐらいで、それ以外は何を見てもその他大勢の部類に入る少年だった。
両親は明良が中学三年の冬に旅行先の事故に巻き込まれ既に他界している。
高齢出産だったため、これが最後になるなと言って出掛けていって、本当に最後にしてしまったと、明良は苦い笑いをもらした。
それから一年と半年、明良は両親の生命保険と財産で一人で暮らしている。
奨学金制度のある今の男子校に入学して明良は不満の無い毎日を送っていた。

着替え終わった明良は洗面所に行き、黒のコンタクトを両目にはめると度数の無い大きめの伊達眼鏡をし、最後に天然の髪を両手でくしゃっと更に強い癖を付ける。
「……よし」
鏡で自分の姿を再度確認してから、鞄を持って明良は家を出た。



彼は既に一年と三ヶ月弱、周りを騙し通していた。
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