にょた

□指切り
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「謙さん、俺…と…別れてください…」

周りはクリスマ一色になり吐く息は白い

「えっ…どないして?
うちに何か悪い事あったん…有るんやったら言うて…
ちゃんと直すから…別れんといて」

別れを告げられもともと大きな瞳がさらに大きくなり揺れ動く

「…ちゃうわ、もぅ…終わりにしたいんや」

謙の瞳を見ることが出来ずただ地面を見ることしか出来ない

「…いやや…、うちは…光と一緒に居りたい!
迷惑かけん…やから…やから」

「……鬱陶しいんや、そう言うんが
プロになれるチャンスがやっと俺に来たんや
女が居るって分かったらそれでパァになってまうかもしれんのに……
あんたも医者になるんやから…そっちで恋人さがせや!
もぅ、だるいんや、あんたが!」

心にも無い事をしゃべる口

「実際もう、あんたん事何とも思ってへん
さっさと、消えろや」

グロスが塗られた形の良い唇を噛み締め涙を流す事無く小さく「ごめん…」と呟いてからその場を去った
誰も居なくなった場所に綺麗に包装された箱が残されただけだった




















「HIKARUの新曲聴いた?」
「聴いた聴いた、めっちゃいい曲だよね」

【HIKARU】今若い女性に人気なアーティスト
二年前にデビューして直ぐにオリコン一位
数々の賞を取り注目ねアーティスト


漆黒の髪と瞳に両耳にはカラフルなピアス
誰もが目を惹かれる存在
テレビに出ない日を数えた方が早い


でも、彼は決して笑わない
いや……笑えないのだ……………












「忍足先生、明日お友達の結婚式ですよね?」
「お、そうだけど」

東京の大学病院に転勤してから標準語で話すようにしてから早三年
ミルクティーブラウンのフワフワの髪をポニーテールにしてけらけら笑う謙
申しけなさそうに話す看護師を不審に思いながら首を傾げる
「なにかあった?」
「あ…はい、明日日勤出てもらえませんか?
羽山先生が遅れてしまうみたいで……」

羽山先生とは謙と同じ小児科の医師
患者からにも看護師からにも人気のある男性

「午前中だけらしいので…」
「ん………、いいよ」
謙の返事を聞くとパアッと華が咲いたように明るい笑みを向けた
「ありがとうございます」とお辞儀をして廊下を走って行った

「しゃあないか、白石に言わな」
1人になると使う関西弁
頭をかきながら白衣のポケットに手を突っ込み歩き出した

白石は千歳とやっとゴールインした為、明日結婚式を挙げる
テニス部全員が久しぶりに集まり会う
それには財前も出席すると聞いている

会いたいけど会いたくない思いが行き来する



5年前の財前のあの表情が未だに謙の脳裏に残って離れないでいる


外に出ると車椅子に乗り散歩を楽しんでいる患者に付き添う看護師
息抜きの為に外に出てきて体操をしている医師

謙は日が当たるベンチに腰掛けは食いのポケットにしまってある白い携帯を取り出し【白石 くら】の名前を選択し電話をかけた

「もしもし」
『おっ、どないしたん謙?
何かあったん?』
「白石、明日の結婚式遅れえ出席するんやけど大丈夫?」
『なんや、親友の結婚式に遅れるん?』
「あっ、いや…ちょっと…」
『ふふっ、ええよ
謙の事やから誰かの代わりに入ったんやろ』
「おおきに
ホンマに堪忍な」
『ご祝儀包んだってな』
「…期待せんで待ってえや」

幸せいっぱいの白石との電話を切りまた携帯をしまい病院に戻った

空は相変わらず青いままだった




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