君の笑顔

□16廻
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1999
出雲・初夏
ー葉達が去ったその後ー






「修行・・・
 じゃと?」
葉明の声が聞こえた
「ああオレもシャーマンになりてえんだ」
次に聞こえたのは竜の声

立派な佇まいの門の横に「麻倉総占」と書かれている

「頼むぜじじい
 男一匹木刀の竜ひとり男にしてくれねえか」
柱に肘をつけ葉明の背中に話しかける
「帰れ」
パクッと口に食事を入れる葉明
ボコォーーンと竜に式神が攻撃をする
「ぶぎゃ!」
その攻撃をもろに喰らう
「ぬあああ!
 じじいひでえじゃねえか理由も聞かねえでいきなりぶっとばすなんてよォ」
池に落ちびしょ濡れになる
「かッ 貴様の理由なんぞ聞くまでもないわい大体それが人にものを頼む態度かこの不良が
 フン・・・
 どうせモテたいとかロクな理由ではないだろうに」
「ゲッ なんでわかったんだこのじじい」
図星をつかれる竜
「ワシも男じゃ
 かつては夏の肝だめしシーズンともなると 娘共をおどとかしてはイャーン怖いとか言わせたものよ」
葉明の過去に驚きまた池に落ちる
「特に大社町のヨネ子などは美人だが人一倍怖がりでな」
フフ・・・と過去をまだ語る
「んなこたァどうでもいいだろ
 わかってんなら修行つけてくれたっていいじゃねえかよ」
びしょ濡れの竜は怒鳴る
「ならん
 悪いがワシには貴様に修行をつける筋合いがないお引きとり願おう」
そう言うとバタンと門を閉まられてしまった

・・・すまんな
竜くん
我が麻倉と佐藤の
戦いに他人を
まきこむわけには
いかんのじゃよ

閉められた門の前に佇む竜
「・・・・・・・・・
 うおおこのケチンボウいいじゃねえかちょっとぐらいよ」
ドカドカと門を蹴る
『しつけえ奴だなダメなもんはいくらやってもダメに決まってんだろ』
背後から声が聞こえ振り向く
「ん何ィ!?
 誰だてめェ・・・」
『オレだあン時は世話んなったな竜』
ドロン・・・と姿を現すトカゲロウ
「ゲ! トッ!
 トカゲロウ!?
 何故てめえが出雲(ここ)に!?」
かつて取り憑かれた張本人の竜は驚く
『さあな実はオレにもよくわからねえただ・・・
 どうもオレは居場所をなくしまったらしいんだ)
少し寂しそうに言うトカゲロウ
動きが止まる竜
「あ?」
唯一出た言葉

出雲日御碕灯台

「ウラミが・・・・・・
 消えた?」
『・・・ああこのオレとした事が 自分でも驚くほどキレイさっぱりな
 あれほど恨んでた阿弥陀丸の事も生きる事さえ許されなかった600年前の世の中の事もなんだかどうでもよくなっちなったんだ』
二人は草むらに座り込み話す
『おめェに取り憑いてあの葉ってガキと戦って以来な』
過去を振り返る
「・・・・・・・・・」
それを黙って聞く竜
『全く不思議なガキだったぜ奴にかかるとそれまでこだわってたものも急にとけちまう
 なあ オレはどうかしちまったのか?
 あの悪名高いトカゲロウが丸くなっちまうなんて!
 こんな根性なし気持ち悪くてまるでオレじゃねえみてえだ
 おかげで何もする事がなくなって困ってんだよ
 かといって今更成仏して地獄なんざ行きたくねえしよォ」
頭を抱え悩むトカゲロウ
「よかったじゃねえか」
竜の一言
『・・・あ?』
「おめェはどうもしてねえさ怒ってもねえ悲しんでもいねえやっとまともな状態になれたんだよ」
『まとも・・・
 だと?』
「ああ・・・
 人ってやつは すぐ感情に支配されるからな友達同士にしたってよ
 みんな大して変わりねえはずなのにふとした事で仲良くなったりケンカしたりするだろ感情一つで人は敵も味方も作ってまうんだ
 だから本当は敵も味方もこの世には存在しねえ全部てめえの勝手な正義感が生みだした苦しみなんだ
 トカゲロウおめェは敵のなくなった今初めて自分に向きあい本当の居場所を探す事に気がついたんだよ」
海をジッと見つめる
『な・・・なんだてめぇ
 若ェくせに知った風に!
 歳ごまかしてんのかぁ!?』
大人びいた事を言う竜に驚く
「クク・・・
 オレもこのうっとうしいオーラのせいで若ェ頃は苦労してきたからなァ」
クリクリとヒゲを触る
「葉のダンナはよこんなオレ達を決してあきらめる事なく受け入れて・・・
 それに気づかせてくれたんだオレは本当ははそんなダンナにあこがれてシャーマンになりてえと思ったんだよなァ」
立ち上がりズボンのポケットに手を入れる
『・・・竜』
そんな竜が頼もしく見える
『おめェ アメリカ行ってスシバーどうとか言ってたんじゃねえのか』
「バカヤロウせっかくなけなしの金で出雲まで来てダンナの師匠に会えたんだぜだったらやるだけやってみてえだろうがよ
 なんだかんだ言ってもオレは霊が見えるんだ
 っつこたァ素質も充分モテの可能性だってあるんだからな!」
よっしゃっと両手を拳にし気合いを入れる
『・・・・・・・・・
 ケッ いい気なもんだまあせいぜい生きてるうちは希望を持ってるがいいぜ
 ・・・生きてるうちはよ・・・」
地面を見て悲しそうに言う
「バカヤロウ何言ってやがるそばからあきらめてんだ
 居場所がねえならオレが居場所になってやるオレがシャーマンになったらお前がオレの持霊だぜ」
竜の顔を見て涙を溜めるトカゲロウ










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