A leisure club

□欲しい。
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他のやつじゃだめなんだ。

























あいつじゃなきゃ、
























そう、あいつじゃなきゃ…駄目なんだ。





『欲しい。』





「もう、やだ…こんなの」

吐き捨てるような言葉。
それが何を意味しているのか、悠理はまだ分からなかった。
ただ、あの場所から逃げ出した後悔と、悔しさが胸の中を満たしていく。

「こんなの、…あたいじゃない」

溜息と共に落ちる言葉は、高い空に吸い込まれる。
消え入りそうなその声は、確かに普段の悠理からは想像も出来ないほどに小さかった。
何度も口を開いては息を吐く。
いつもよりも早く走った為か、鼓動は跳ねたまま治まる事を知らなかった。


胸が痛い。


何かが痞えたような違和感を拭い去る事は、出来なかった。





清四郎が、気になった。
誰よりもいじわるで、人を見下したかのような顔。
人間以下の存在に扱って、いつも自分を馬鹿にする。



だけど、



いつもからかって、いつも馬鹿にして、いつも見下すくせに、





時折見せる顔がひどく優しくて。





だから知りたいと願ったんだ。





清四郎の事がもっと知りたいって、そう願ったんだ。















―――会いたい。















―――一緒にいたい。















不意に、頭に浮かんだ。

突然の考えに、悠理は大きく首を振った。
けれどどんなに首を振っても頭の中から言葉は消えず、
それどころか、より鮮明になっていく。

会いたい。
一緒にいたい。



誰よりも側にいて欲しい。



ただ、それしか考えられなかった。






























「…うっ…っく…ふっ…」

自然と口から零れ落ちる息。
同時に、瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちた。
徐々に大きくなる声。
誰もいない通りに、自分の泣き声だけが響いていた。











何で、いないんだよ―――。










その時だった。





―――泣かないで下さい、悠理。





声が、聞こえた気がした…。



終。

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