A leisure club

□頑固
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眼前には、完全なる拒否。
拭い去る事の出来ない厳然たる事実。
その事実に顔を背けようにも、頑固なまでのこの性質が
どこまでも、どこまでも…邪魔をした。



『頑固』



閉ざされた重厚な扉が何よりも重く感じた。
拒絶された言葉が喉の奥に痞え、清四郎はズルズルと崩れ落ちる。

ふぅ、と小さく息が口をついて出た。
テーブルの上に両肘をついて指を組む。
その指の上に額を乗せると、頭を侵す痛みが和らぐような気がした。


逃げるように去った後姿。
そんなにも嫌われていたとは思ってもみなかった。
数日前から感じていた視線。
それがどんな意味を持つのか知りたくて、以前よりも強くからかった。
それで、何かが分かると…そう信じていた。

けれど、突きつけられたのは絶対の拒否。
嫌悪を含んだ暗い眼差し。
彼女の名前を呼ぶ事すら許してもらえずに拒絶される。

くつくつと、喉の奥から笑いが込み上げる。
嘲笑するような、侮蔑の笑み。
それが彼女に向けられるものなのか、それとも自分に向けられるものなのか。
清四郎は、それすらも認めたくなかった。





ただ、確かめたかった。





自分の中に渦巻くこの感情が、彼女をと思うこの感情が何なのか…。





―――知りたかった。





ズルズルと沈んでいく身体。
感情が、鉛のように重く圧し掛かる。
組んだ指を解くと、潰れるように額をテーブルに押し付けた。
ひんやりとした感触で、自分の考えを無理やり冷やそうとする。
けれど、湧き上がる感情の渦の前では、それすらも無力で。
今は何も考えたくない、そう思っていた。

























かたん。





何かがぶつかる音がした。
潰れた身体は重く、確認する気力さえ起こらない。
けれど何もしないというのも気が引け、突っ伏した顔を上げると、音のした方へ目を向けた。
視線の先には、部室の扉。
自分を拒否した彼女の心と同じ、重苦しいまでに厚い扉が見えた。
友人の誰かが戻ってきたのかと思い、清四郎はゆっくりと身体を起こした。
姿勢を正し、自分のマグカップを手元へと寄せる。
けれど扉は開く事無く、ぴたりと閉じられたままだった。
訝しげに眉を寄せると、再び、がたんと音がした。

誰かが扉に寄りかかるような音。



―――まさか。



脳裏に一つの考えが過る。
あまりに自分に都合の良い考え。
けれど、その考えを否定する事も出来ず、清四郎は物音を立てずに扉に近づいた。










「…っく」










―――泣き…声?










間違えようの無い彼女の声。
けれど、その声は明らかに震えていて。
出すのを堪えるような、小さな小さな声は、



確かに、静かに泣いていた。



確かめようと、扉に手を置く。
不意に、扉の向こうの気配が変わった。
清四郎は扉の向こうの人物を捕まえようとノブに手を掛け、

…止まった。

先ほどの彼女の姿が脳裏に過る。

身体が動かない。
ノブに掛けた手はどんなに力を入れても動きはしなかった。



遠ざかる気配。
振り切るように逃げていく気配。
聞こえていた足跡は、次第に耳に届かなくなり…、
ドアノブを握っていた手を清四郎は力いっぱい壁に叩きつけた。

強情な自分に、何度も何度も拳を壁に叩きつける。
鈍い痛みは強くなり、叩きつけた箇所はうっすらと血が滲んでいた。
痛みに眉を寄せる。
けれど、そんな痛みよりも扉の向こうで泣いていたその姿を思うと、
何もしないではいられなかった。

血の滲む手のひらをジッと見据える。
指先が冷えるようなその感覚を抑えるように拳を握ると、
清四郎は部室を飛び出した。



終。
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