Subject-b

□理解
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「だから、どうしてそんなに馬鹿なんですかねぇ」





『理解』





溜息雑じりの声。
その声があまりにも呆れたものだったから、
ついつい、反論したくなるんだ。

「そんなの、あたいのせいじゃない」

そう言ってみるけれど、目の前の顔は溜息を吐くばかりで。
何だか余計に腹が立つ。

大体、お前だって知ってるじゃないか。
どんなに努力したって、やったって駄目だって事は、
誰よりもあたいの勉強を見てるお前が、一番分かってるはずだ。
なのに、そうやって大げさに溜息を吐くなんて。

「大体、真面目にやってるんですか?」

真面目に、やってるに決まってるだろ。

「もう少し真剣にやらなければ、いつまで経っても無理だと思うんですけどねぇ」

だから、あたいはいつだって真剣だっての。
そう…口に出したいけれど、出そうものなら絶対に倍になって返ってくるはずだから。
だから、しょうがないけど黙ってるんだ。





「大体、そんなに嫌いならどうしていつも逃げないんでしょうかねぇ」

突然の言葉。
思わず驚いて顔を上げれば、目の前にはにやりと意地悪く笑う顔。

「…何だよ」
「いいえ、何でもありませんよ。ただ、そんなに嫌いならどうしていつも勉強をするんですかね」
「…勉強しろっていうの、清四郎じゃないか」
「えぇ、ですが悠理の足ならば逃げる事は可能ですよね。それなのに逃げないのはどうしてなんですかね」

問い詰めるような声。
しっかりとこっちを見つめて放さない目は、薄く笑っていて。



コイツ、絶対に分かってるはずなのに聞いてるんだ。



何でこんなやつなんだろうな。
ガキの時はあんなに弱かったくせに、いつの間にかこんなやつになってさ。
弱っちぃ、ただのお坊ちゃんだったくせに。

思わず口から溜息がこぼれる。
目の前の顔も、手元の教科書も、どっちも見ているだけで頭が痛くなった。



「悠理?」



不意に心配そうに聞いてくるけど。
でも、そんなの知るもんか。
お前なんかに教えてなんかやるもんか。





大体、言わなくても…
















―――解れよ、ばか。



「…解ってますよ」

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