小説
□あめあめふれふれ
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ここはどこだろーな、とりあえずまだ眞魔国なんだろう、とは分かりつつ雨粒を木陰から見上げる。
まさか向こうが大雨だったとはいえ、雨に流されてこっちに来れるとは思いもしなかった。
へっくしゅ、と小さくくしゃみをして保護者がそろそろ来るころかも、なんて期待してみる。
しかし、なかなかその様子はない。
いい加減に寒いし、雨はやまないし、保護者は来ない。
くっそ、ツイてないなぁ。
木の下で、体育座りして鼻をすすった。
しとしと。
ぴちゃり。
「こんな所にいては風邪をひきますよ。おかえりなさい、ユーリ」
どれくらいそうしていただろうか。
ふと聞こえた声に、有利は上を見上げた。
ようやく会えた、俺の保護者。
いつもの笑顔に出会えて、有利はほっと息をついた。
「来てくれないのかと思ったよ」
「まさか。俺にとってあなたは何事にも代えがたい魔王陛下なのですからね」
言いながらコンラッドは俺の肩に自分の上着を掛けてくれた。
「さぁ、帰りましょうか」
いたずらっぽく笑うコンラッドに、有利も軽く笑ってうなずいた。
「うん。そうだね」
差し出された手につかまって立ち上がると、その手は泣きたくなるほど温かかった。
「歩いてきたの?」
コンラッドの持ってきた一本だけの傘に入りながら、有利は周りを見渡す。
たぶんここは血盟城の近くでもないはす、歩いてきたからここまで時間がかかってしまったのだろうか。
「たまには、ね」
聞くと、いつも駆けつけてくるギュンターは政務に忙しいグウェンダルに捕まったらしいし、ヴォルフラムは未だに寝室から出てこないらしい。
だから、二人きり。
静かに降る雨。
一つだけの傘。
二人っきり。
たまには雨もいいかも、なんて有利は心の中でつぶやいた。
End