小説

□あめあめふれふれ
1ページ/1ページ

ここはどこだろーな、とりあえずまだ眞魔国なんだろう、とは分かりつつ雨粒を木陰から見上げる。


まさか向こうが大雨だったとはいえ、雨に流されてこっちに来れるとは思いもしなかった。


へっくしゅ、と小さくくしゃみをして保護者がそろそろ来るころかも、なんて期待してみる。


しかし、なかなかその様子はない。


いい加減に寒いし、雨はやまないし、保護者は来ない。


くっそ、ツイてないなぁ。

木の下で、体育座りして鼻をすすった。


しとしと。
ぴちゃり。


「こんな所にいては風邪をひきますよ。おかえりなさい、ユーリ」


どれくらいそうしていただろうか。


ふと聞こえた声に、有利は上を見上げた。


ようやく会えた、俺の保護者。


いつもの笑顔に出会えて、有利はほっと息をついた。

「来てくれないのかと思ったよ」


「まさか。俺にとってあなたは何事にも代えがたい魔王陛下なのですからね」


言いながらコンラッドは俺の肩に自分の上着を掛けてくれた。


「さぁ、帰りましょうか」

いたずらっぽく笑うコンラッドに、有利も軽く笑ってうなずいた。


「うん。そうだね」


差し出された手につかまって立ち上がると、その手は泣きたくなるほど温かかった。


「歩いてきたの?」


コンラッドの持ってきた一本だけの傘に入りながら、有利は周りを見渡す。


たぶんここは血盟城の近くでもないはす、歩いてきたからここまで時間がかかってしまったのだろうか。


「たまには、ね」


聞くと、いつも駆けつけてくるギュンターは政務に忙しいグウェンダルに捕まったらしいし、ヴォルフラムは未だに寝室から出てこないらしい。


だから、二人きり。


静かに降る雨。
一つだけの傘。


二人っきり。


たまには雨もいいかも、なんて有利は心の中でつぶやいた。



End

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ