屋上

□原点
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綺麗だと、心から思った。




青空に映える、白い腕。
真っ白い笑顔。
風に乗って揺れる髪。
ヒラヒラとはためくスカート。
宙に投げ出された足。
落ちていく身体。
消えていく命。




















初めて見た、人が死ぬ瞬間。

それをただ綺麗だと思った。





多分きっと、

それが始まり。
















「…――と――さと―おい、雅人?」

「ん?あぁ」

「大丈夫かよボーっとして。都、授業行っちまったぞ?つーかチャイム鳴ってるから」

「……怠い」

「…ソーデスカ」




丁度今日みたいに、暖かく晴れた日だった。

僕は姉の自殺の理由を知っていたんだ。



「じゃ、俺も一緒にサボっちゃおーかな」


祐司が隣に腰掛ける。

「………」

姉には、こんな相手がいなかった。






 





姉はもともと心臓が弱くて、二十歳まで生きられないと言われていた。

将来性のない身体。
まともに学校へも行けず、友人もできない現状。
規制ばかりする医者と、事務的な看護士。
仕事で滅多に会わない父。
見舞いにくる度、疲れた顔で愚痴をこぼす母。
そして、僕。



体の弱い姉ばかり気遣う両親に苛ついて、僕は姉に会うたび恨み言を吐いていた。




だけど今でもよくわからない。

本当に姉に嫉妬していたのか。
姉を追いつめたかっただけなのか。









 
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