屋上

□暗雲
2ページ/2ページ


手足に力が入らない。

全身が、だるい。





寒い。











「水浴びか?」



酷く、心地いい声がした。

相手は皮肉を言ってるのだろうに。



そんな風に感じた自分に笑えてくる。




「そう見えるか?雅人」

「さぁ?」


どうでも良さそうにそう言って、雅人は俺の腕を掴んだ。
そのまま引き上げて立ち上がらせる。

雅人まで濡れたらマズいので、俺は屋上の入り口まで歩いていった。



屋上の出入り口には最低限雨が防げるだけの屋根がある。
風の強い日だったらアウトだろうが、今日に限ってはその心配は必要なかった。


雅人はその屋根の下に座ってタバコを取り出す。

どうやら帰る気はないようだ。

自分も隣で同じように腰を下ろす。



背中に当たる冷たい壁と、さっきより勢いを増した雨のせいで、ふとこの狭い空間に閉じこめられているような錯覚を起こした。




「……雅人…」


だけどここには、俺一人でいる訳じゃない。


「ん?」


気づけば呼吸は楽になり、言いようのない不安も消えていた。

なんだか面倒くせぇ事をウダウダ考えてしまったな、と。自分で自分がウザったく思えた。

本当、笑える。



「俺ちょっと寝るわ。適当な時間に起こして」

「ああ」



愛想笑いもなければ、沈黙を埋める無駄な会話もない。

だからきっと落ち着くんだ。




『寝過ぎの頭痛はそう悪くないぞ』


緩やかな睡魔も、
この安心も、
ここでしか手に入らないものだから。



今なら『寝過ぎの頭痛』なんて未知のモノでさえ、体感できるような気がした。






ゆっくり目を閉じる。


雨音と雅人の気配だけが、世界を埋め尽くしていた。
















to be next...
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ