屋上
□暗雲
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手足に力が入らない。
全身が、だるい。
寒い。
「水浴びか?」
酷く、心地いい声がした。
相手は皮肉を言ってるのだろうに。
そんな風に感じた自分に笑えてくる。
「そう見えるか?雅人」
「さぁ?」
どうでも良さそうにそう言って、雅人は俺の腕を掴んだ。
そのまま引き上げて立ち上がらせる。
雅人まで濡れたらマズいので、俺は屋上の入り口まで歩いていった。
屋上の出入り口には最低限雨が防げるだけの屋根がある。
風の強い日だったらアウトだろうが、今日に限ってはその心配は必要なかった。
雅人はその屋根の下に座ってタバコを取り出す。
どうやら帰る気はないようだ。
自分も隣で同じように腰を下ろす。
背中に当たる冷たい壁と、さっきより勢いを増した雨のせいで、ふとこの狭い空間に閉じこめられているような錯覚を起こした。
「……雅人…」
だけどここには、俺一人でいる訳じゃない。
「ん?」
気づけば呼吸は楽になり、言いようのない不安も消えていた。
なんだか面倒くせぇ事をウダウダ考えてしまったな、と。自分で自分がウザったく思えた。
本当、笑える。
「俺ちょっと寝るわ。適当な時間に起こして」
「ああ」
愛想笑いもなければ、沈黙を埋める無駄な会話もない。
だからきっと落ち着くんだ。
『寝過ぎの頭痛はそう悪くないぞ』
緩やかな睡魔も、
この安心も、
ここでしか手に入らないものだから。
今なら『寝過ぎの頭痛』なんて未知のモノでさえ、体感できるような気がした。
ゆっくり目を閉じる。
雨音と雅人の気配だけが、世界を埋め尽くしていた。
to be next...