脳内風景

□リストカットシンドローム
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申し訳なさそうに俺が持ってきた食事へ手をつけた瑠璃に、俺は明るく声をかけた。
「大丈夫だって言ったろ?俺も内定取れたし、バイトで金も貯まってる。瑠璃も今年で義務教育終了だしさ…卒業したら…一緒に暮らそ?」

ずっと前からの約束。
瑠璃と二人で、この家を出る事。
それが俺達の夢だった。

『うん。約束ね』
青白い顔に笑みを浮かべて、瑠璃は小さく呟いた。


  ◆◆◆


何かを忘れている気がした。
それでも俺は、
いつまでも夢の中に微睡んでいたかったのだ。


  ◆◆◆


「和真…あなた毎日毎日学校にも行かないで、一体何やってるの?」
母と二人で取る夕食。当然瑠璃はここにいない。
「別に」
瑠璃を家の中で見かけることは滅多にない。理由はもちろん母が瑠璃を嫌うからだ。
瑠璃は風呂とトイレの時以外あの部屋を出ない。それも、風呂は母が寝静まってからひっそりと。トイレも母が来ないかどうかを確かめて、それでもなるべく行かないようにと言う徹底振りだ。
「別にって…もう一週間よ?こんな大切な時期に一週間もお休みなんて、学校で何かあったの?」
理由は簡単。
瑠璃が一週間前から学校を休んでいるのだ。俺が学校なんかへ行っていれば、この家は瑠璃と母の二人だけになってしまう。さすがにそれは心配だった。
「和真…あんな事があって、辛いのは分かるけど」
ふいに、真っ紅に濡れたイメージが浮かぶ。
壊れた環境。
狂っていく人間。
「放っといてくれ」
俺はそれ以上の言葉が聞きたくなくてそう言った。
「どうして?お母さんは貴方が心配で…昔はあんなにいい子だったじゃない…あの子?…そうよね。あの子のせいなんでしょ?…あの子が全部悪いのよ!あんな子がいたから」
「母さんっ!!」

これ以上、母の口から瑠璃の悪口を聞きたくなかった。
俺はほとんど残った夕食の皿を手に、そのまま部屋を出ていった。

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