脳内風景

□最後の空は朱い空
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空が青く晴れ渡り、澄んだ空気がひんやり冷たい、秋の風。
その風に少しずつ少しずつ流されながら、白い雲がゆっくりと形を変えていく。


「何見てんだ?」
小さな窓枠に寄りかかり、30分前からそこにいる…そんな少女へ向けて、かけられた台詞。
「雲よ。一瞬たりとも止まらない、ほんの一秒前の姿すらもう見えない。まるで人ね」
窓の外を向いたまま、どうでもいいという風に答える少女。
彼はそんな少女に苦笑して優しく返した。
「そんな事考えてんだな。お前って」
「変?」
「全然」
そんな会話を交わしつつ、二人は窓の外を眺めていた。
「思うの」
沈黙を間に挟みながら、ぽつりぽつりと、言葉が落ちる。
「何を?」
「人間の体内では今何億もの細胞が生まれ、また死んでいくわ。つまり一秒前の私と一秒後の私は変わらない様に見えて大きく違う。生まれ変わっているのよ。変わらないものなんか無いの。この空だって、昨日と同じ様に見えても全く違うわ。変わらない様に見える物は、その殆どが幻の様なもので、現実、リアルにあるものは絶対に変わる。状況も、状態も…想いも」
「そうかもな」
「人は変わるからこそ美しい。性格も、態度も、口調も、思考も。色々な物に触れて、長い時間を生きて、沢山の何かに出会って、変わる。その思考の変化が、とてつもなく…私は、好きなの。変わる事を恐れる人間は、きっと思考を止めた人間だわ」
重々しい沈黙。
「ごめんね」
青年は俯いて呟く。
その一言に、沢山の意味が込められていることを、少女は思考せずとも知っていた。
謝罪。感謝。悔恨。懺悔。沢山の意味。
「変化を恐れるなんて、おかしな事だわ」
「そうだね」
「思考を自ら止めるなんて、愚かしい事よ」
「そうかもね」
少女は辛そうに顔を歪めた。
青年は悲しげに微笑んだ。
「それでも…いくの?」
問い。
ソレは少女の中の、覚悟だったかもしれない。
「うん」
もしくは気持ちの整理にも似ている。
彼はもう一度謝った。
「ごめんね?」
それでもやっぱり、分からなかった。
「どうして?」
「……疲れたんだ」
「疲れた?」
「目まぐるしく変わる周囲に。余りに変わらない自分に」
「そんな事無い。変わらないものなんて無い」
「怖いのかもしれない」
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