屋上
□此処
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side 都
「イエーイ!いっちばんのりぃ」
人気のない廊下を抜けて、立ち入り禁止の札をまたいで階段を上がると、
そこには初めて見る、この高校の屋上がある。
「さーすがクラッシャー・ミワコだな」
人がいないのをいい事に、鍵を壊して進入だ。
「ミヤコだよっ」
裕司は面白そうに笑った。
後ろの雅人も、何となく頬がゆるんでいる。
空は晴天。
下には桜。
目の前には裕司と雅人。
記念すべき入学式にはとっておきの日だ。
「ってゆーかさ、2人とも入学早々サボりでいいの?」
「何言ってんだよ。入学式だからこそ人がいなくて、うってつけなんだろ?」
「そうそ」
雅人がタバコに火をつける。
その仕草を見つめて、やっと満たされたような気がした。
長かった。
春休みの間、ずっと会わなかったから。
怖かったんだ。
雅人が変わってたらどうしよう?
私のこと忘れてたら?
「なぁーんて、そんなちょっとの間に忘れちゃう訳ないんだけどさ。ねぇ梅子ちゃん」
「また始まったよ、都の一人芝居」
「一人じゃないもん」
お友達と喋ってるんだもん。
私の部屋には、100体以上の「お友達」がいる。
ちなみに今抱いている“梅子ちゃん”は真っ赤な3段の雪だるま型で頭に桜のマークが入っているぬいぐるみ。
目と目がちょっと離れてる感じが可愛いのだ。
ついでに言うと、背中のチャックにはさっき屋上の鍵を壊した凶器(かなづち)が入っている。
梅子ちゃんは綿がたっぷり入っているから、堅い物が入っても抱いた感じはあんまり変わらなかった。
大好きな大好きな、お友達。
もう私の友達は、雅人と裕司とこの子達だけ。
だけどそれで十分だ。
何の不満もない。
どうか、ずっと、このままで。
「都さぁ、その“お友達”高校入っても毎日持ってくる訳?」