脳内風景

□リストカットシンドローム
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忘れている事がある。

俺が忘れている事は
多分…
思い出してはいけない事。

紅い色の中に映える、濃厚な深い緑色。



  ◆◆◆



『私…和真お兄ちゃんには、笑ってて欲しいの』


俺が中学の時からバイトを始め、金を貯めていたのは一重に俺の妹…瑠璃の為だ。
血の繋がらない俺の妹。

「瑠璃?何言ってるのよ!そんな子何処を見たっていないじゃないっ!!」

瑠璃は、親父とその愛人との間に出来た子供だった。
だから母は、瑠璃を死ぬ程憎んでいる。
そして、逆に俺を溺愛する事によって、瑠璃との愛情に差をつけていた。


  ◆◆◆



「瑠璃。メシ持ってきたぞ」
階段下の物置の中。ここが一応瑠璃の部屋。
置いてあるのは学校の鞄と、ほんの少しの洋服だけ。それも全て俺が買い与えた物だった。
『ありがとう』
弱々しく微笑んだ妹の左腕には…無数の傷。
瑠璃は、リストカット症候群なのだ。
深緑のカッターナイフをチキチキと動かし、常に肌身離さず持っている。
瑠璃が唯一大切にしている物…服などの必要品を抜かした、唯一の私物が…瑠璃を傷つける為の物でしかないなんて…
なんて皮肉。
『ごめんね…お兄ちゃん』
「何謝ってんだよ」
6年前に親父が事故で死んでからずっと、母は瑠璃を虐待してきた。
当然の様に瑠璃の存在は無視され、食事だって作られない。そのくせ、何か少しでも気に入らない事があればすぐに瑠璃へ手をあげる。瑠璃が自分の私物に触れる事を極端に嫌い、俺と話す事も嫌った。

母は…もうずっと前から狂っているのだ。
そして恐らく…瑠璃も。
 
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