脳内風景

□屋上のマリア
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少し風が強い。
澄んだ空は青く晴れ渡った秋晴れだ。
そういえば、飛び降り自殺ってのはこんな晴れた日が多いんだとか?
この考えは、私の友人を前にしている時、あながち突飛な発想でもない。
「バカと煙は何とやら?」
相変わらず、気を抜くといつの間にか屋上に上がっている…私の友人に尋ねた。
「…うるさいよ」
無愛想に返す彼女。
左手首には真新しい包帯。
リストカットの痕。
「何でそんなに好きなのかな〜?」
「安心するから」
「どうして?」
青い空を見上げていった彼女。
「ここなら、いつでも死ねる」
それから黙り込んで下を見下ろす。
私はどすればいいの?
私にどうして欲しいわけ?
「精神安定剤足りてないんじゃない?」
私が皮肉にそう言えば
「さっき飲んだ」
こんな返事。
こんな返答期待してない。
溶けるような、甘い視線。その目の先にあるのはいつも…
“ 自分の死 ”
いつの日か死に神に魅入られてしまった彼女。
恋するように。
焦がれるように。
死を祈る。
こうして空を見上げる彼女はまるで聖女のよう。
儚く清く美しく。
「早く…死にたいな」
そう呟く彼女はまるでマリアのよう。
強く優しく慈悲深く。
「綺麗な…青空ね」
でもダメ。
死に神なんかにあげられない。
彼女がどれだけ恋していても。
彼女がどれだけ焦がれていても。
彼女がどれだけ想っていても。
絶対、あげない。
「バカ」
今すぐにでもフェンスを越えて、飛び立ってしまいそうな彼女。
その右腕をしっかり掴む。
「何?」
「いい?これから先きっと何十回でも何百回でも言うと思うけど、でもしっかり聞きな」
「何度も言うならしっかり聞かなくても…」
「聞・き・な!」
あくまで右手は放さない。
あんたの右手はね?手首切る為にあるんじゃないのよ!!
「死ぬな」
「………」
「生きて」
「………」
彼女は相変わらずの無表情。
夢見るような定まらない視線で、私の気持ちなんてこれっぽっちも届かない。
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