脳内風景

□鈴
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「どうしたの?」
小首を傾げて鈴が訪ねる。
可愛いじゃないか。
「何でもないよ……けど…」
「ん?」
「いい加減僕の上から退いて」
ってゆーか、もうすぐ死ぬ奴がそんなにはしゃぐな!!
見てるこっちがハラハラもんだっ!
「あ、ごめぇん」
そうして、素直に離れていった鈴。

鈴は…自分の死を、一体どう考えているのだろう?

幼い頃から、死と隣り合わせに生きてきたのだ。
自分の先…つまり見えている未来が、理不尽に確定されてしまっている。
夢も希望も未来もなく、ただただ死に向かうのみ。そのうち先を見ることすら忘れてしまうだろう。
一生懸命な祈りも、必死の努力も、何もかも無駄になる事を…彼女は幼い頃から知っている筈なのだ。
それでも
君は、笑う。
もし君の笑顔が壊れてしまっているというのなら、
むしろそれは…
“必然”なのかもしれない…
 
   ◇◇◇
 
最後の晩も、昨日と同じ様な夜だった。
「えーいっうるさぁっい!!皆なんかっ、メロンパンの角に頭ぶつけて死んでしまえっ」
「豆腐だろ」
「どうしたら間違えられるのよ」
「てか、メロンパン角ないし!?」
「死ぃなぁな〜いでしょぉ〜、それぇ」
最後の晩だった。
いつも通りの夜だった。
「なぁ〜んか〜…ちょぉ〜眠ぅい」
「お前はいつでも眠そうだけどな」
「確かに」
「あぁ〜ひどぉ〜い。ねぇ、結城もぉ〜そ〜思うぅ〜?」
「いや…僕は…」
「思わないってぇ〜」
「無理矢理ね」
そんな感じに夕食の片づけを終え、皆は部屋へ戻っていった。
後から考えると、四人はこの時、僕等に気を使っていたのだと思う。
鈴にとって最後の旅行だから。最後の晩だから。二人きりにしてやろう、と。
それが、
あんな結果を招く事になるだなんて、皆は…いや、僕自身も予想すらついていなかった。

「今日、結城の部屋行ってイイ?」

そう言って壊れた笑みを小さく浮かべた…鈴以外の誰が…あんな事態を予想できたのだろう?
 
   ◇◇◇
 
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