脳内風景

□鈴
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   ◇◇◇
 
所変わって、大広間の方では麗華と終夜が会話中。
「あたしぃ〜、ピンクの紫陽花のがぁ好きなんだけどぉ〜」
窓の外を眺めながら、森住麗華は呟いた。
「知らん」
「終夜ぁ〜冷たぁ〜い」
現状を説明すると、麗華は窓に寄り掛かり、終夜はソファに横になっている。
やはり二人とも顔色が悪い。
「気ぃ持ぉち〜悪ぅい」
「オレもだ」
鈴の料理を食べて正常でいられる人間はなかなかいない。
「大体何でぇみぃんな青なのぉ〜?ちょぉ〜ブルーで寒々しぃじゃなぁ〜い」
「土が酸性だから」
「じゃあ〜アルカリ性にしてぇ〜」
「お前が埋まってろ」
「なぁんで〜そ〜なんのよぉ〜」

「完全に酸性の土なら人間の体でも肥料になるだろ」
「終夜はぁ何でそんなに冷たぁいのぉ〜?返事が簡潔過ぎんのよぉ〜」
「性格だ」
なんて不毛な会話を繰り返し、終夜はまるで酔っぱらいの相手でもしている様だ。
だが残念な事に、終夜の溜息を聞き止めてくれる存在は、窓の外の紫陽花以外にないのだった。
 
   ◇◇◇
 
その日の夜。
夢を、見た。
多分あれは…旅行初日…二人で交わした、鈴との会話。
この別荘に着いたばかりの時。
紫陽花の量に驚きながら、鈴は笑って言っていたのだ。

「結城。うちが死んだら、この紫陽花の下に埋めてくんない?」
もちろん冗談だと思った。
だってそれは、
「お墓もお葬式もいらないから」
あまりにも突飛な話だったから。
「バラバラにして、この庭中に。沢山の紫陽花の根本に」
どうしてそんな風に思ってしまったのだろう?
「結城が…毎年うちを思い出せるように…」
僕は約束してしまった。
「いいよ」
絶対してはいけなかったのに。
「…ありがとう」

どこかで
壊れていたんだ。
僕も…鈴も…



 
   ◇◇◇
 
「結城ーっ!」
昨日と同じく鈴の声に起こされた。
「どんな夢みてたっけ?」
大事な事だった様な気はするのだが…
だんだんと目が覚め、現実がはっきりしていく頃には、夢など見たかどうかすら怪しくなってくる。
まぁそんなものだろう。
人間は無意識の記憶の整理にまで気をかけていられる程暇じゃない。
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